第四話 極悪人の島ノアールへ
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船はゆっくりと次の島に進んでいた。
確かヴォルカニック島の隣は──ノアール島だったか。
よく見てみると、海の色が妙に濁っている。
「……環境汚染か?」
思わず口に出た。
俺は各地の島の名前と位置は覚えているが、その実態までは知らない。
けれど、この海の濁り方はただの自然現象じゃない気がした。
「ジンソクリュウガはどこにいるんだ……」
あれ以降、俺らは連絡手段どころか、会う手段さえない。
そんなとき──
「はい! 着きましたよおおおおおお!!
そこの人、早く降りてくださいいい!!!!」
船長が、考えごとをしていた俺に耳元で大声を上げた。
「す、すみません!」
不満げな顔をされながら、俺は慌てて船を降りた。
船を降りた瞬間、肌を刺すような湿気と重たい空気がまとわりついた。
見上げれば、空まで濁っている。
「……ヴォルカニック島とはまた違うな。
ついに死ぬのか、俺。」
そう呟く声が、自分でも冗談に聞こえなかった。
遠くから、男たちの怒号と笑い声が聞こえた。
「金出せって言ってんだろ!!!!!」
「へへへ……金がないなら、あれしかねぇな?」
とんでもない町だな。
一言で言うなら、それがこの島の第一印象だった。
【サブクエスト発生:借金取りを撃退せよ】
【条件:借金取りの男2人を倒せ】
【報酬:共鳴石の充電】
「……この石、充電器機能あんの?
てかサブクエストって何!?」
もうツッコミどころが多すぎて、思考が追いつかない。
創造神だのなんだの、突っ込み疲れた俺は、
とりあえず暴れている借金取りの男たちへと走り出した。
「お前ら! 借金取りなんて時代遅れだぜ!」
勢いだけは満点で、俺はドヤ顔を決める。
「うるせぇ! テメェには関係ねぇだろ!!」
「関係あるんだよ!!
このクエストクリアしないと充電切れんだよ!!」
俺は圧倒的な力で2人を気絶させた。
「ほぼ勢いで倒したけど……この2人のレベルはどれぐらいなんだ?」
見てみようとした瞬間──
「あれ、なんも見えないぞ? おかしいなぁ……」
と独り言を言っていたとき、背後から声がした。
「借金取り2人をあっさり倒すなんてやるじゃない……褒めてやってもいいわ。」
助けた金髪のギャル女が、俺に言ってきた。
その言い方があまりにも上からで、思わずムッとする。
「お前ずいぶんと上から目線だなぁ!?」
「えー、事実を言っただけじゃん?」
彼女は不敵な笑みを浮かべながら、腰に手を当てて言った。
金髪に日焼けした肌、ショートパンツ。
そのどれもが、この島らしい姿だなと思った。
「てか、あんた観光客には見えないけど?」
「こんなところ観光するやつなんて絶対いないだろ!!」
俺は思わず全力でツッコんだ。
「気をつけなさい。このノアール島には──
史上最強の極悪人がいるのだから。」
一瞬、空気が凍りついた。
「……極悪人?」
金髪のギャル女は視線を遠くへ向けた。
その先には、黒い霧に包まれた街並みが見えた。
「あれが──ノアールタウン。
そしてそこに住み着いてるのが、史上最悪の極悪人。」
金髪のギャル女は低い声でそう言った。
その横顔には、さっきまでの軽さはもうなかった。
「そいつは一体……?」
俺はその正体を聞き出そうとした。
「そいつの名は──モルドス・アバーク。
ノアール島をたった一人で支配している最悪な男……」
「モルドス・アバーク……」
その名を繰り返した瞬間、体中が震え上がった。
名前だけで、まるで何か“呪い”のような圧を感じたのだ。
「震えてるわね……当然よ。だって──」
金髪のギャル女は怖い顔をして息を吐いた。
「あいつは隣の島、ヴォルカニック島の一般市民などを
次々と殺していった……。」
金髪のギャル女の声には、かすかな怒りと恐怖が混じっていた。
どおりで人の気配がないと思った。
頭の中に、あの炎の番人の姿がよぎる。
もしかして、あいつも被害者だったのかもしれない……。
そのとき──
俺の頭の中に、再びあの無機質な声が響いた。
【クエスト発生:極悪人モルドス・アバークを討伐せよ】
【条件:モルドス・アバークを倒せ】
【報酬:???】
「……報酬が伏せられてる?」
思わずつぶやいた。
クエスト発生は、なんとなく予想していた。
だが報酬が“非公開”なんてのは──史上初だ。
……いや、まだ二回しかクエスト受けてねぇけどさ。
“???”なんて表示、ゲームでもロクな展開じゃない。
ましてや──命がかかってるこの現実で。
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「顔色悪いけど、どうしたの……?」
金髪のギャル女が俺の顔を覗き込む。
「……決まってるだろ。」
拳をぎゅっと握りしめて、俺は前を見据えた。
「俺は──モルドスを倒しに行く!」
「はぁ!? 急に何言ってんの!? 本気!?」
彼女の声が裏返る。
驚きと、どこか呆れが混じったような調子だった。
「悪いけど、これは俺がやらなきゃならない。」
荒らされた俺の島──
過去のヴォルカニック島で起きたこと。
いろんなことが重なって、怒りに満ちていた。
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「……。」
ギャル女は黙って俺を見つめていた。
その瞳の奥には、言葉にはできない複雑な感情が宿っていた。
俺の心情を読み取ったのか──
あるいは、ほんの少しの期待か。
「……わかったわ。」
ギャル女は腕を組み、素っ気ない態度で言い放った。
「別に心配もしてないし、死んでもどうでもいいけど──」
その言葉とは裏腹に、彼女の声はほんの少しだけ震えていた。
強がっているのは明らかだった。
「ただ、アイツを倒せるなら……」
ギャル女は視線を遠く、黒い霧に覆われたノアールタウンへ向けた。
「この島に、少しくらいは“朝”が戻るかもね。」
と言い放って、ギャル女は背中を向けた。
まるで、二度と会えないかのように。
俺は思わず声をかけそうになったが、
喉が詰まって、言葉にならなかった。
ギャル女は後ろを振り返らずに言った。
「死ぬなよ……正義のヒーローさん。」
低く、けれど確かに届く声でそう言い残し、
そのままノアールタウンとは真反対の方へと歩き出し、姿を消していった。
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「正義のヒーローか……」
俺は別に、これといって立派な信念があるわけじゃない。
基本、自分の得のためにしか動かない──そんなクズ人間だ。
助けたいとか、救いたいとか、そんな綺麗ごとを言えるほど純粋じゃない。
けど──
“正義のヒーロー”
その言葉だけで、俺は何か変われるんじゃないかと思った。
その答えは、ノアール島。
ここで見つけられるのだろうか
読んでいただきありがとうございます!
次はノアールタウン潜入!




