第十一話 モルドスが闇を手に入れた理由
──闇の王と呼ばれた男にも、かつては“光”があった。
まだ若かった頃のモルドスは、王国の近衛騎士団に所属していた。
誰よりも誇り高く、民を守るために剣を振るう青年だった。
「俺は、誰も泣かせない。守るために、この剣があるんだ」
その信念はまっすぐで、誰もがモルドスを慕っていた。
だが――彼の人生を狂わせたのは、一つの“事件”だった。
ある日、王都に現れた“ゴッドアイの持ち主”。
人の本質や嘘を見抜く力を持つ、神の加護を受けた存在。
だが、その力は“真実”だけでなく、“不信”も生み出した。
ゴッドアイの少女が告げた一言が、すべてを変えたのだ。
「この中に、裏切り者がいる」
――そして、名指しされたのは、モルドスだった。
信じていた仲間が剣を向け、王が処刑を命じた。
無実を訴える声は、誰にも届かなかった。
「俺は……裏切ってなどいない! ゴッドアイが、間違っているんだ!」
だが、その声は届かない。
モルドスの眼前で、彼の家族は処刑された。
その瞬間、モルドスの中で何かが崩れた。
――神を信じた俺が、神に裏切られた。
血と絶望の中、モルドスは誓った。
「ならば俺が、神を超える。光を信じた俺が、闇の王となろう」
こうして、王国の守護者は滅び、
ゴッドアイを憎む“闇の支配者”が誕生した。
焼け落ちた王都の外れ。
血に濡れた剣を握りしめ、モルドスはただ立ち尽くしていた。
――すべてが消えた。
信じた仲間も、愛した家族も。
そして、守るべき王国さえも。
「……俺を裁いた神など、いらぬ」
夜空を見上げ、モルドスはかすれた声で呟いた。
その瞳には涙ではなく、憎悪が宿っていた。
「もし神がいるのなら……俺を止めてみろよ」
その瞬間、足元に黒い影が蠢いた。
地の底から響くような、低い声が聞こえる。
『――呼んだな、人の子よ』
暗闇の中から現れたのは、黒い鎧をまとった影だった。
人ではない。神でもない。
“絶望”そのものが形を取ったような存在。
「……お前は、何者だ」
『我はアビス。滅びの底より来たりしもの。
お前の魂に宿る“憎しみ”が、我を呼んだ』
黒い手が伸び、モルドスの胸に触れる。
痛みはない。だが、確かに“何か”が流れ込んできた。
『契約せよ。お前の望みは叶えよう。
代わりに、お前の光を我に捧げろ』
モルドスは躊躇しなかった。
「構わん。光など、とっくに捨てた」
その瞬間、闇が爆ぜた。
黒炎が空へ立ち上がり、大地が悲鳴を上げる。
モルドスの瞳は深紅に染まり、全身を黒い紋様が走った。
『契約は成立した。――お前は今より、“闇の王モルドス”』
「……これが、俺の選んだ道だ」
かつて民を守った英雄は消えた。
そこに立っていたのは、神を憎み、光を拒んだ“闇の覇者”。
モルドスは静かに拳をを掲げ、夜空を見上げた。
「ゴッドアイの持ち主よ……次に出会うとき、お前を必ず殺す」
こうして、王国を救った英雄モルドスは、世界を呪う“災厄”となった。
──光が、ゆっくりと消えていった。
「……終わったのか?」
あたり一面に漂っていた闇の気配が、まるで嘘みたいに静まり返っていた。
俺の手に握られた剣は、まだかすかに熱を帯びている。
「モルドス……」
彼は最後まで敵だった。でも、ただの悪ではなかった気がする。
最後に見たあの表情──まるで、何かを託すような目だった。
「お前の過去に……何があったんだ」
その答えは、もう聞けない。
俺は深呼吸をして、剣を鞘に戻した。
【クエストクリア:???は第ニの鍵に変化しました
【レベルアップ 6→47 】
【スキル《無限の勇気》を習得しました】
「……これは、鍵?」
手のひらの上で、淡い光が揺れていた。
モルドスの消えた場所に残ったそれは、黒い闇を飲み込みながら、やがて透き通った“鍵”の形を成していく。
「第ニの鍵……って、ことは」
俺は思わずつぶやいた。
「これで……二つ目、か」
握った鍵が淡く脈動し、胸の奥に温かいものが広がる。
モルドスの死が無駄じゃなかったと、そう信じたかった。
そのとき、無機物な音声が頭に流れ出た。
【新クエスト発生:《失われた道》】
【目的:???】
【推奨レベル:50以上】
【報酬:第三の鍵】
「……推奨レベル50? おいおい、ハードル下がりすぎじゃないか?」
思わずため息をつくが、どこか笑みがこぼれた。
怖くない。いや、むしろ、ワクワクしていた。
そのとき、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
「バラド……お前、生きてたのか!」
「おいおい、死んだことにすんなってぇ!俺はしぶといんだよ」
バラドは肩をすくめ、俺の前まで歩いてくる。
「その鍵……お前、モルドスを倒したんだな」
「……ああ。」
“無限の勇気”――さっき習得したスキルの名が、妙に胸に響く。
「行くか……次のクエストへ」
夜明けの光が差し込み、遠くの空に新しい旅路が続いているように見えた。




