転生前は織田家だった
「バルト、バルト、起きなさい。いつまで寝てるの。」
と母親のマリーがいつものように朝寝坊のバルトを起こしに部屋のベッドのところまで
やってきて大声を上げていた。
「うーん、あと少し、、一時間だけ寝かせてー。」
と朝が弱いバルトは、目を開けずに必死でマリーが掛け布団を引っぺがすのを必死の抵抗を
見せていた。
「もうあなた今日で12歳になるんだから、もっとしっかりしなさい。」
と毎日の攻防戦を今日も飽きずに繰り返していたのだが、母親は偉大であった。
バルトがこの世界に転生してきたのは、12年前のちょうど今日で、バルトは生まれた時から
前世の記憶を残したまま生まれて来たのだった。
前世では本人の考えでは、普通の日本の一般家庭に生まれ何の不自由も無く暮らしていた。
唯一他の家庭と違っていたことと言えば、仏間には間口が5m四方もあるような大きな仏壇が
あって、あの織田信長の末裔であることだった。
小さいころからのそのような環境も手伝ってか、大学では日本史を専攻する普通の大学生だった。
両親はいつも織田家の末裔として自覚して生きるようにということで、バルト、いや将人には
武家としての英才教育を与えていたようだった。
家訓は、
「人間五十年、化天のうちを比ぶれば夢幻の如くなり、一度生を受け滅せぬもののあるべきか」
「理想を掲げ、信念をもって生きよ。理想・信念を無くしたものは、戦う前から負けている。
そのような者は死人と同じ。」
などいろいろあったのだが、歴史の授業で誰もが習って耳にする、一番有名な
「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス」
は信長本人は言ってないとのことで、家訓には入っていなかった。
将人は、いつものように電車に乗って大学に向かっていたのだが、その事件は何の前触れも
なく訪れた。
将人には何が起こったのか分からない程の一瞬の出来事だった。
そう将人がつり革に掴まって窓の外を見ていると、ブスリと通り魔にナイフで後ろから
心臓を一突きされたのだった。
もちろん将人にも大声を上げる程の痛みがあったが、事切れたのは数秒後のことだった。
その次に目を開けた時には、もう自分が赤ちゃんである認識と織田将人の意識がくっきりと
共存していたのだった。
「今日は誕生日のお祝いをお父さんと買いに行く約束だったでしょ。」
とマリーはバルトに最後の切り札を出した。
この世界では、12歳の誕生日祝いに家業を継ぐためにシンボルとなる何かを親から子へ
プレゼントすることが習わしだった。
バルトは宮廷第一召喚士の肩書を持つ偉大な父親の後継者として、明日からは宮廷直下の
魔法専門学校に入学することが決まっていた。
父親はダーオ・デミオ40歳、公爵の爵位と宮廷第一召喚士の肩書を持つ、国内最強の召喚士
としての地位を揺るぎないものとしていた。
彼はドラゴンが召喚できたので、人間vs人間や人間vs魔族との戦争が絶えないこの世界
ではとても重宝され、国王からの信頼も厚かった。
「はっ。」
とそのことを思い出したバルトはようやく眠い目を擦りながらベッドに起き上がって
母親のマリーを正視した。
「おはよう、お母さん。ありがとう、もう起きたから大丈夫だよ。」
とバルトは母親に甘えた声で返事をした。
「明日からは、全寮制の学校に入るというのに、ダーオ家の名前に傷がつかないように
してもらいたいんだけど、大丈夫なのかしら。」
とバルトは母親の小言にはもう慣れっこではあったが、右から左へ聞き流す魔法?
を使っていつも対応していた。
正確にはそれは魔法の類ではないのだが。。。
「明日から頑張るよ。」
とバルトはだらだらとした口調で答えた。
父親と二人で出かけるのは記憶に無い位久しぶりだった。
「バルト、お前学校大丈夫だろうな。
みんな12歳になる前からしっかりと魔法の勉強してきてるようだから、
みんな途中から授業に参加するということでは同じ条件なんだから。
お前も家庭教師を付けてやってたんだ、
みんなにいじめられる落ちこぼれには成るなよ。」
と父親の性なのか心配していることをバルトにストレートにぶつけて来た。
「なんとかなるさ、みんな同じ位の年齢の子だし、魔法もこれからしっかり頑張るよ。」
とバルトは父親を心配させない様に答えた。
しかし、前世の記憶のおかげで基礎学力がダントツに高かったため、
これまで3人の家庭教師は一様にバルトを褒めて、
「算術、読解力、歴史に関しては、同じ世代の子たちと比べても群を抜いて
トップレベルであることは間違いないでしょう。
しかし、魔法に関してはまだまだ伸びしろだらけですなぁ。」
と両親にも見込み有の報告をしていたのだが、家庭教師たちの報告通りで、
魔法はぜんぜん身につかなかったのだった。
「一応聞いてみるが、召喚魔法はこれまで何が出せたんだ。」
とまたまた父親はストレートに嫌な質問をして来た。
「えっと、えーっと、どうだったかな」
と考える振りをしてはぐらかそうとバルトは企んだのだが、ちらっと父親の方を見ると、
目力が凄かったので、続けて
「えーと、スライムっぽい魔物とバッタみたいな昆虫は完璧だよ。」
とバルトは父親の質問に嘘偽りなく答えた。
「あれは本当だったのかぁ。
スライムとバッタじゃあ、戦闘にはまだまだ連れて行けんなあ。
家庭教師たちが魔法に関しては伸びしろがあるといつも言ってたが、
そういうことだったんだな。」
と父親はバルトを憐れそうなそうな目で見た。
「あー学校でいじめられなければいいんだが、心の準備は必要かもな。」
と続けざまに父親の心の声が漏れたのだった。
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