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街道で寝る魔術士とどうにか連れて行く戦士

次の朝、ベルンハルトは大広間の宿泊客の話声で目が覚めた。

「あ、やべ!」

ベルンハルトが起きると、明け方に起きるつもりだったのに、ずいぶん時間が経っていた。

「おはよ」

ソムナリアはすでに起きていた。

「先に食べちゃったよ。昨日の残りのパンとデュンビアが出たよ。」

「デュンビアが出るのか。…まあビアとはいえ酔うほど濃くないよな」

「うん。普通にきれいな水みたいに飲めるよね」

「じゃあ、俺、食ってくる」

カーテンを開けて、大広間に出て行った。

独りになったソムナリアは、ベッドに横になって天井を見つめた。

「ベルンハルトに…見られたよね…」

独りごとをつぶやいた。

「でも、あんまり気にしないタイプなのかな。だといいんだけど」

当のベルンハルトは、パンを口に押し込み、デュンビアで流し込みながら考えていた。

「ソムナリアのあんな姿見たの初めてだったな。でもああいうときは俺はどうしたらいいんだろう…」

そうは言っても旅は続くので、ベルンハルトは、夜中のことはなかった振りをすることにした。

急いで朝食を取って戻ってくると、ソムナリアは、寝ていた。

「なぜいまここで寝るんだよ…」

ベルンハルトは膝をつくぐらいに脱力してしまう。

「あ、行く?」

ソムナリアは、起き抜けの顔で訊ねた。

「ああ、行くぞ」

-外は晴れ上がっていた。

宿屋の主人がわざわざ外に出て見送ってくれた。

「スープ、おいしかったです」

ソムナリアは、笑顔で報告した。それを見て、宿の主人は笑顔を見せた。

「そう言ってもらえるとうれしいですね。よろしかったら、ソムナリアさんも今後ともご贔屓に」

ソムナリアは微笑みながらうなずいた。

「見送りまでしてくれてありがとう。また来るわ」

ベルンハルトが宿屋の主人に礼を言う。

「それじゃ行こうか」

「そうだね」

二人は二日目の行程に入った。街道を南下するだけの簡単な任務のはずであるが、ソムナリアはどうしても安閑とはしていられない。

「いや、多分いないって…」

ベルンハルトはややあきれ気味に、ソムナリアに問いかける。

ソムナリアはマナ探知機を覗き込みながら歩いている。

「そうなんだけど…なんか気になるんだよ…」

マナ探知機から目を離しては、周囲を念入りに伺う。

「安心できるはずなんだけど、なんか納得できないの…」

ソムナリアは、眉間にシワを寄せたり、ため息をつきながら歩いた。

魔術で炎や電撃や風が発生させられるのは、マナと呼ばれるエネルギーの一種を消費するからである。マナは通常は小さな(バッグ)に入れられていて安定しているが、ウェラと言う人から出る念力のようなものに反応する。

マナ感知器が反応するなら、封が解かれているマナバッグが近くにあると言える。

ソムナリアの手元のマナ感知器が反応するなら、近くに封を解いたマナバッグがあると考えられる。そして、基本的にはソムナリアたちに危害を及ぼそうとしている者のしわざであると考えられる。

「…だから安心できないの」

ソムナリアはベルンハルトに言い聞かせるように説明していた。

「それでも、昨日の昼の街道でも、昨日の夜の宿屋でも、追手はいなかったじゃないか」

ベルンハルトが思ったことを言う。

「そうなんだけど、マナ感知器を見るとね、なんか不安になるの…」

ソムナリアも思ったことをそのまま話す。

「そうか。まあ気になるのはしょうがないか。でも、気にしすぎたら、身体がもたないぞ」

ソムナリアは、黙ってうなずく。

「うん…だいたい、今から眠いの…」

まだ半分も進んでいないのに、ソムナリアの足取りがやや危うい。

「歩きながら寝るなよ。本当に寝そうだ」

「分かってる。歩いている間は寝ないから」

ソムナリアば弱々しく答える。

「本当に寝たら背負うしかないな…」

ベルンハルトの言葉に目が覚めた。

「それは避けないと」

ソムナリアは歩を早めた。

ベルンハルトにとっては、あからさまに拒絶されたようなもので、あまり気分良いものではない。もっとも、身体と身体が密着するので嫌がるのも無理はないと知っている。ベルンハルトは、そのままソムナリアの遠ざかる背中を見ながら、ペースを変えずに歩いた。

そのうちソムナリアも逃げるのに飽きて、二人はまた並んで、もくもくと歩いて行った。

正午前になると、ソムナリアが口を開く。

「おなかすいた…今日は昨日よりも疲れやすいし」

「ああもう、分かった分かった。その先に集落がある。街道を通る人目当ての店があるはずだ。そこまで我慢してくれ」

ソムナリアはうなずいた。

それから余り経たないうちに、集落に入った。数は多くないが、確かに店がある。デュンビアとパンの店、スープを主に売る店、日没までに次の街にたどり着けない旅行者たちを狙った宿屋、街道沿いらならではの店である。

二人はパンとデュンビアを売る露店を訪れた。露店の主人は、何も言わずに銅貨を受け取り、パンとデュンビアを二人分差し出した。

集落の端で、ベルンハルトは空を見ながら、パンをゆっくりかじっている。ソムナリアは木陰でそよ風を感じながら寝そうになっていた。それどころか、ときどき意識がとんでいる。それでも意識が戻れば、パンをかじる。

「おい、ソムナリア、大丈夫か…?」

ベルンハルトが心配そうにたずねる。

「あ…うん…大丈夫………」

その言葉とは裏腹に、ソムナリアの目が閉じていく。

「大丈夫じゃないじゃないか!」

「あ…ごめん…ほんとに大丈夫………」

「本当にダメじゃないか、おい」

「………」

そして、ソムナリアは完全に寝入ってしまった。

おそらく集落の住人なのだろう、初老の男が近寄ってきた。

「おいどうした?わけありか?」

おそらく駆け落ちの真っ最中だと思ったのだろう。ベルンハルトはそれを全力で否定する。

「俺たちは公務で南部に向かってるんだ」

安全通行証を見せる。

初老の男は一瞥して、目の前の男と眠っている女は、何らかの命令を受けて旅をしているものと悟った。

「お急ぎですか?」

「南に向かってるんだが、今日中に次の駅の街に着きたい。だが、彼女が起きない限りはたどり着けない」

「それなら、南に向かう荷馬車があります」

初老の男は振り返って指で示した。たしかに馬車が出発準備をしている。

「確かに荷馬車は乗り心地が悪いが、俺たちはそれは気にしない。ありがとう。交渉してくる」

そう言うと、ベルンハルトは荷馬車に近寄った。

「二人、乗せられないか?」

馬車主は怪訝そうな顔でベルンハルトを見つめていた。

「ちょっと乗せて…」

馬車主はベルンハルトの言葉を遮った。

「乗せないぞ。金をもらってもダメだ。お前らの身元が分からんからな」

ベルンハルトは微笑を浮かべながら、説得を試みた。

「俺たちは怪しいものではない。その証拠に…」

「その人たちは、安全通行証を持っとられるぞ!」

ベルンハルトの背後から声がした。先ほどの初老の男だ。

「公務として南に行くんだそうだ。問題ないだろう?」

馬車主から疑いの色はかなり消えていたが、完全に消えたわけではない。馬車主はベルンハルトに向かって無言で手を差し出した。ベルンハルトは安全通行証を見せる。安全通行証を確認したら、ベルンハルトが追剥か何かでないかとの疑いは晴れた。

「疑って悪かったな。こっちも警戒しないといけねえから」

「それは分かる。客のはずが実は追剥だったなんてことはあるからな」

「しかし、あそこで無防備に寝てる女も公務か…」

馬車主は、道端で仰向けになって寝入っているソムナリアをいぶかしげに見つめる。

「ああ。あいつは、魔術士だからな」

ベルンハルトもソムナリアを見つめながら答える。

「聞いたことはある。女でも魔術士にはなれるらしいな」

「ああ。しかもあいつ、かなりの魔術士だったんだ」

「あの無防備に寝てるヤツが?へえ、人は見かけによらないな…」

二人はしばらく、無防備に寝息を立てる女と「かなりの魔術士」という言葉のギャップを感じながら、ソムナリアを見つめていた。

「…ところで、次の駅までの便乗はいいのか?報酬は?」

「いいよ。4インでどうだ?」

馬車主の申し出に、ベルンハルトは応諾に躊躇した。やや高い。安いパンなら5本ぐらいは買える。とはいえ、あの眠ったままの魔術士を放置するわけにはいかない。

「もう少しまからないか?」

ベルンハルトに問われても、馬車主は涼しい顔だ。

「ん?あの魔術士さんと一緒に明日まで寝るのか?」

「分かった。4インで…お願いします…」

ベルンハルトはうめくように応諾した。

ベルンハルトは銀貨を渡すと、ソムナリアの許に走った。

「おい、起きれるか?」

「…うう…ふう…」

ソムナリアは、なんとか目を開けた。

「あの荷馬車に乗るぞ」

ソムナリアは黙ってうなずく。

「できないならだっこするぞ?」

「自分で乗る…」

ソムナリアは、起き上がって、ふらふらと荷馬車に向かった。荷馬車にゆっくりと乗る。荷台に座り、すぐに寝た。

その後でベルンハルトが荷馬車に乗った。

「じゃあ頼む」

馬車主が軽く合図を与えると、馬はゆっくりと常歩で歩きだした。

ベルンハルトは荷台に座ったまま、前方を見たり、後方や左右を見回し、ときどきソムナリアの寝顔を一瞥して、またすぐに外を見回していた。

ソムナリアの無防備な姿が眼に入るたびに、ため息が出る。

「昨日から緊張を強いていたのかもな」

そして、その度に自分の頬を叩いて気合を入れる。

「今は俺がしっかりしないとな」

こういうことを繰り返し続けて、日が傾いてきてようやく、次の街が見えた。

途中の集落で「駅」と呼んでいた街である。

この街は、南方戦線までの駅伝制の一つを担っている。


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