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「冒険」のおわり

次の日の朝、ソムナリアとベルンハルトが帰路に就こうとしたとき、ギョームがやってきた。

彼は「たまたま首都ノルダンセルの顧問魔術士事務所に手紙を送らないといけない」と言って、訝しがるベルンハルトに紙片を手渡した。

「これ、『ハドリアン君、元気か?』としか書いてませんが…」

「その手紙はとても重要だから、定期便の馬車に乗っていいぞ」

ソムナリアとベルンハルトは顔を見合わせた。定期便馬車は普通では乗れないが、重要物品を送る用務を命ぜられたので乗る資格ができたのだ。

「ありがとうございます!」「早く帰れます!」

二人そろって感謝の意を伝えた。

「あの、これは渡した方がいいでしょうか?」

ベルンハルトの質問にギョームはうなずいて答えた。

「渡さないと用務にならないだろう?」

「そうですね…」

そのうちに定期便の御者が「間もなく出るぞ!」と号令した。

「ほら行きなさい」

「はい!またお会いしましょう」

そういうと、ベルンハルトは回れ右をして馬車に乗り込んだ。ソムナリアも後を追って乗り込んだ。

すぐに馬車が出発した。ソムナリアとベルンハルトとギョームが手を振り合って別れを惜しんだ。

定期便の馬車は快速で知られている。往路は三日かかったが復路は一日しかかからなかった。

首都ノルダンセル直行の予定だったが、ベルンハルトが御者に依頼して隣の都市ノアルコに寄った。

「ここからだと自宅まで帰れるよな?」

少しだけ光を残す空の下で、馬車を降りたソムナリアにベルンハルトが尋ねる。

「もちろん。すぐそこだからね」

「報酬の金と『ファラリス年代記』の中巻は後で責任もって届くように手配する」

「ファラリス年代記はちゃんと届けてよ。お金は急がないけど」

「分かった。早急に送る手配をする」

ソムナリアが大きく伸びをした。

「また明日から魔術教室の講師に戻るのよね」

ソムナリアが感慨深げに言った。

「まだ日常に戻りたくないといったところか?」

「うーん…そうかも知れない。けど日常に帰りたい気分もあるの。子どもたちに教えるのは楽しいからね」

ソムナリアは強い眼差しで微笑んだ。

「そうだよな。ジュリアンにも丁寧に教えてたよな」

「そう?」

ソムナリアは少し喜んだ。

「なあ」とベルンハルとはソムナリアに言った。

「なに?」とソムナリアが答える。

夜の風が二人の間を通り抜けた。

「ん?なに?」

ソムナリアは首をかしげながら、もう一度尋ねた。

「…いや、なんでもない」

ベルンハルトは首を横に振った。

「ならいいけど。そろそろ行くね」

帰ろうとしたソムナリアの背中に、ベルンハルトは声をかけた。

「なあ、また冒険に行かないか?」

薄暮の中、ソムナリアの微笑みがぼんやりと見えた。

「昨日も言ったけど内容によるよ」

ベルンハルトも笑顔を見せた。

「じゃあまた!」とベルンハルトが言う。

「じゃあね!」とソムナリアが応えた。

道の上からソムナリアが手を振り、馬車からベルンハルトが手を振り返した。

軽やかな音を立てつつ馬車が走り出した。すぐに馬車は闇に消えていった。

ソムナリアは「またねとは言ったけど…」と呟いてから家路についた。

それから数時間後の首都ネアルコティク。魔術顧問事務所に向かう馬車があった。

暗闇の中にある事務所の前で停止した馬車から一人の男が降りた。

彼は真っ直ぐ夜間受付に向かう。

「輜重隊分隊長のベルンハルトです」

「うかがっています。執務室へどうぞ」

「ありがとう」

ベルンハルトはドアを開けて事務所に入った。

事務所内は昼間と違って職員がほとんどおらず、廊下も暗く静かである。

ベルンハルトは音を立てないように気を付けて歩いているつもりだが、自分の足音がやけにうるさく聞こえた。

「執務室」の前に着いた。ベルンハルトがノックをする。

「ベルンハルトです」

「どうぞ」

中から男の声が聞こえた。

ベルンハルトがドアを開けた。軋んだ音が執務室と廊下に鳴り響いた。

執務室の奥には、小さな火を封じ込めたランプが見えた。

それはデスクに置かれ、そのデスクの持ち主の男の顔をおぼろげに見せている。

「報告書を持ってきました」

ベルンハルトが報告書を手渡す。

男は、目を通してからベルンハルトに視線だけを向けた。

「これは間違いないか?」

「…はい。間違いありません」

短い間静寂が落ちた。

「まだか…」

ランプの炎が揺らめいた。二人は動かずに、ランプに照らされていた。

同じ頃、ソムナリアが月明かりの中で目を覚ました。伏せていた顔を上げた。

開きっぱなしの「ファラリス年代記」を見つけると、静かに閉じて机の上にそっと置いた。

「明日読もう…」

ソムナリアは、ベッドに座って、そのまま仰向けに倒れ込むと、すぐに眠りに落ちた。


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