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コイバナ・シリーズ

コイバナ: 「アザの話」

作者: 成田チカ

 「信じらんねえよ!」


 そう言って服を掴むと、彼は部屋から出て行った。


 私はその後姿を、ただ黙って見ていた。

 追い駆けるなんてことはしない。

 大体、私は今、ベットの上で半裸だし。

 その姿で彼を追い駆けたら、明日から御近所様の視線が冷たくなる。


 「はーあ。まただよ。」


 私は溜息をついてベットに横たわった。



 これで何度目だろう。

 折角彼氏ができても、服を脱がされる段階になると、これだ。


 理由は一つ。

 私の胸には、アザがある。


 生まれつきのアザで、両親は成長と共に薄れるか消えるだろうってお医者様には言われたらしい。

 でも、その希望とは裏腹に、このアザは今も私の胸にある。


 普段は服を着てると見えないから、知ってる人はあまりいないと思う。


 このアザが何故私のラブライフを蝕んでいるかというと、ぱっと見、キスマークに見えるのだ。


 よく見ればアザだってわかる(と思う)。

 でも、興奮してその気になってる男には、アザとキスマークを冷静に判別する余裕は無いらしい。

 少なくとも、今までそんな御仁にはお目にかかったことが無い。


 「服着たままとか、電気消したままとかでやればわかんないのに。」


 そう、親友は言ってくれたけど、そんな人も今までいなかったんだもの。 仕方が無いじゃない。

 「ダメ」って言っても脱がすし。

 電気消したって、薄明かりの下でもうっすら見えるのよ、これ。

 元が色白だと、どうしてもアザが目立ってしまって仕方がない。


 一度なんて、「私、アザがあるから」って言っておいたのに、「気にしない」と言ったその男は実際にアザを見ると、「変な嘘つくなよ」って捨て台詞を吐いて出て行った。


 で、これを見ると相手は「誰と寝た」って言って怒るとか、「俺の他にもいたんだな」って言って打ちひしがれたような顔をするとか、「お前、処女だなんて嘘つきやがって!」って逆ギレしたりとか。

 反応は様々だけど、共通していることは、皆、私と別れる。


 そんなこんなで未だにヴァージンなんですけど、私。

 このままだと、見合い結婚した初夜に旦那から「浮気者~」とか言われて離婚とかってことが起こるような気も、しないでもない。

 このまま独身でいた方が楽でいいかな、とか、ちょっと自虐的になりながら日々を過ごしていた。


 そんな時、小学校の同窓会で彼と出遭った。

 彼とは小さい頃、家が隣同士で仲が良かった。いわゆる、幼馴染っていうやつ。

 一緒の保育園に通って、小学校も1年生から4年生まで同じクラスだった。

 でも、私が4年生の終わり頃に、私の家族が同じ町内に新しく出来た新興住宅街に家を買って引っ越した上、5年生になったらクラスも違ってしまったから、何となく一緒に遊ばなくなってしまった。

 まぁ、よくある話(?)ってやつですよね。


 久しぶりに会った彼は大人びて格好良くなっていた。

 まぁ、小学生が大人になったんだから、当然と言えばそうなんだけど。

 でも、こんなに世間様で言うところの「イケメン」ってやつになってるなんて、誰も教えてくれなかったじゃないのよ!


 そんな彼を、案の定、大勢の女の子(ハイエナ)たちが取り囲んでいた。

 話し掛けるきっかけが掴めないまま同窓会終了~なんてことになるのかなと思っていたら、何と向こうから話し掛けてくれて、話の輪にお邪魔することができた。


 周りの女子たちに混ざりつつ、近況や思い出話を一通り話すと、やっぱりというか、アルコールの力を借りてというか、「付き合ってる人がいるのか」とかそっち系の話にゴリ押してくる女子たちが出始めた。


 女の子たちはそれで盛り上がっていたけれど、私はちっとも、面白くなかった。


 2次会も終わって帰る頃になって、彼が私を呼び止めた。


 「何かあったの?何か、不機嫌そうだったけど。」


 「別に…。私、ああいう話、ちょっと苦手なだけ。」


 「どうして? 付き合ってる人いるって噂で聞いたけど?」


 誰から?何て野暮なことは聞かない。

 地元では、壁に耳あり、障子に目あり。

 まぁ、そんな地元に今も住み続けてる私が悪いんだけど。


 「私、男の人と上手くいったこと、無いから。人に報告できるような話なんて、1つも無いもの。」


 その時の私の表情は「すごく悲し気だった」そうだ。

 だから彼は「悩みがあるなら聴くよ?」なんて台詞を言っちゃったんだと思う。

 私は、別にいいから構わないでと言って、帰ろうとした。


 なのに、卑怯なことに、彼は勝負カードを出してきた。


 「幼馴染だろう?俺たち。」


 今思えば、「幼馴染っつったって、4年生までじゃん!」とか言えば良かったと思うんだけど、その時はきっと、割と本気で好きだった元カレに浮気者呼ばわりされて捨てられたのが、かなり精神的に堪えていたんだと思う。

 彼の言葉や優しい声が、かなり私のツボに入ってしまっていた。


 突如の涙腺崩壊。

 私はその場で、ボロボロと泣き始めた。


 「あの時、お前、卑怯だよ。泣くんだもん。」


 彼は今でも私のことを「卑怯者」呼ばわりする。

 あの後、元カレのことを打ち明けたら、私の胸のアザのことを彼は覚えていたらしく、「ああ、あれか~。覚えてるけど、そっかー。そう言えば、そう見えなくもないよな~」なんて言って苦笑していた。


 見せたことあったっけ?と言ったら、昔はよく一緒にお風呂に入ったなんてことを言われて赤面した。

 彼が覚えていたことも恥ずかしかったけれど、自分がそのことをすっかり忘れていたことも恥ずかしかった。

 

 今は私の「彼」になった彼は、私のアザに優しくキスをしてくれる。 

 私はこのアザを、ほんの少しだけ、好きになった。 

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