23 前世の願い
うん、やっぱり癒しは大事だね。まるでささくれ立った心が浄化されてゆくよう……これは浄化魔法より効果あるんじゃない?
「そんなに見つめられたら照れちゃうよ?」
「いーよ。可愛いだけだからねぇ」
「もう、そういうの良いから。そんなことより突然どうしたの? なにかあった?」
「本気で言ってるのに……別になにもないよ。ちょっと癒しを求めて彷徨ってただけ」
「あれのどこが彷徨っていたのです? 半ば引きずりながら僕をここに連れてきたじゃないですか……」
語弊のある言い方しないでよね。途中までは歩いてたし、その途中からも手を引いて走っただけ。引きずるだなんて心外だよー。
「ルー様にご迷惑おかけしたら駄目だよ?」
「分かってるよ。ルー、なんとなく連れてきたけど帰りたかったら好きにしな」
「では帰ります。僕も癒されてきます。自由な主を持つと大変だとつくづく思いますよ」
明日はいつも通り学園なのですから早めに帰ってきてくださいよ、と母親のようなことを言い残して帰って行った。ルーは時が経つにつれて母親みたいになっていくんじゃないかなって俺は思ってるんだよねー。父親じゃなくて母親。すでにその予兆はある。言ってることが母親なんだよねぇ……本人に言ったら絶対怒るだろうけど。
「ねぇナギサ、秋になったら学園祭があるじゃない? ナギサのクラスはなにをするの?」
「演劇だよー。クラス全員が魔法を使えるようにしてみない? って話になってる」
「それって大変じゃないの? 魔法ってすぐに使えるようになるものではないと思うけど……」
「精霊達が協力して教えてくれるんだよ。それでも難しいなら俺が補助すれば良いだけだし」
「…………」
「アリス? どうかした?」
「なんでそこまでするのかなと思って。そういうの、ナギサはあまり好きじゃなかったよね?」
まあそうだねぇ。聞かれるだろうと思っていたよ。
「俺はね、将来を決められるのが嫌いなんだよ。努力すれば変えられるかもしれない未来を、なにもせずそのままにしておくのが嫌。自分の人生は自分のものなんだから、決められた将来が嫌なら必死に足掻けばいい」
「それは……桜井のこと?」
「……桜井渚は生まれた時から将来が決められてた。でも家族は好きにして良いと言ってくれていたんだよ。俺はそれを聞き入れなかったけど。自分の将来を決めつけて、縛り付けていたのは家柄でも身分でも当然親でもなく、俺自身だった。自分で決めた道を歩めないのが嫌だと思っていながら、俺はなんの行動も起こさなかった。……せっかく転生したんだよ? また人の上に立つ身分だからって同じような生を歩みたくはない。少しでも変わりたいと思ってる」
これはね、渚だった頃も気付いていたんだよ。ずっと分かってたんだよね、家柄から逃れられないよう、自分に鎖を付けていたのは他の誰でもなく俺自身だということ。
俺は臆病なんだよ。失敗するのが怖い。頑張ってもどうにもならないかもしれない。俺がなにか行動を起こしたところでなにか変わるの? って、そう思ってしまう。必死に足掻いてそれでも駄目ならどうにもならないじゃん。失敗を恐れるくらいならなにもしない方が、と思ってた。俺は……そんな自分が大嫌いだった。こういうことを考える度に嫌悪感しか湧かなかった。
「それで?」
「まずは自分を縛り付けていたことで、今までできなかったことをやりたい。前世の俺ってクラスメイトから一歩引いたところにいたと思うんだよ。でも余計な壁がなく、思うままに交流していた友人やクラスメイトはすごく楽しそうに見えて。俺もなにも気にすることなく、その輪の中に入れたら良いのにって思うことがあった。もっと積極的に関わっていけたらって思うことが結構あった」
それができなかった理由は、家柄的に必要以上に人と関わるのが危険だからというのもあったんだけどね。
「だから変わるための第一歩として、まずは前世の願いを叶えたいということかな? 積極的に関わる、その一環としてナギサが手ずから魔法を教えようということ?」
「そう」
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