9 前世の記憶
ルーの言う『重大なこと』に心当たりはない。だけどそう言われると、俺も朝から胸騒ぎがしていたかもしれない。なんかモヤモヤするなーとは思っていたんだけど、精霊の勘だったのかな? 精霊ってどの属性も自然に関係していて、それが関係あるのかないのか知らないけど勘が良い種族なんだよ。
また今回も一騒ぎありそうだねぇ………
「中庭に着きましたがまだいませんね」
「ああ、言い忘れていたが遅れるかもしれないと言っていた」
「そう」
「ところでナギサ。俺はお前の秘密を知っているが、セインやランスロットは知っているのか? 色々と聞き出したいことがある」
うわぁ、完全に目が据わってるんですけどー。やっぱり俺に対して怒ってるんじゃないの?
「俺の秘密って?」
「お前は精霊王ナギサだがその前はさくら、」
「え、ちょっと待って待って! なんで知ってるの!?」
絶対『桜井渚』って言おうとしたよね? 俺、知らない間に話しちゃったりした? え、え、なんで知ってるの? 精霊が話した……ってことはないだろうし、だったらなんで……?
「本当のことだったのか。別に信じていなかったわけではないが……じゃない、近い内に理由は分かる。今は風の大精霊が理由だと思っておいてくれ」
「理解不能だけど……まあいーよ。そうだね、どうせなら君達にも話ちゃおっかな」
別に減るものじゃない。友人であり、信頼できる相手だからね。隠していてもどうせ知られちゃうような気がしてるしさ。
「セインくん、ランスロットくん。驚かないで聞いてほしいんだけど、俺には前世の記憶っていうのがある。この世界とは別の世界で生きていた時の記憶だよ」
「前世の記憶……というものがあると、聞いたことはありますね。伝説のようなものですし、実際にあるとは思いませんでしたが……」
「ナギサがそんなつまらない嘘を吐くはずがないしな。それで、どんな奴だったんだ? 今よりもう少し大人しい容姿だったか?」
あれ? 意外にあっさりしてる? 過去の転生者たちは生涯隠し続けたって世界が言ってたけど、伝説程度には知られている話だったの?
俺もこの世界のことはまだまだ知らないことがたくさんあるねぇ……
「ううん、容姿や声は全く変わってないよ。前世の俺は桜井渚って名前で、皇室の傍系……この国で言う、王族の末席くらいに名を連ねる立場だった。だけど皇族としては本当に下の方だったから、知ってる人はほとんどいない。それ以上に知れ渡った事実があったし。桜井家はね、ティルアード王家と同じくらいかそれ以上にお金があったんだよ。詳しいことを説明しても分からないだろうから省くけど。十七歳の夏、海で溺れた弟を助けて死んじゃって、その後転生したってわけ。でも精霊王ナギサとしての記憶も十分にあるよー」
「……良く分からないが、物凄い家柄だってことは分かった。弟以外に兄弟は?」
「いないよ。五歳差の二人兄弟」
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