64 『今宵は月が綺麗ですね』
精霊王ナギサの姿に戻った俺は、大騒ぎになっている会場の真ん中の方へ足を運んだ。そこに集まっている人たちも、離れたところで青褪めている人たちも、誰一人として俺の存在に気付かない。
両陛下も消火や場を鎮めるために指示を出しているし、エルフ族や魔族でさえ遠巻きに騒ぎを見ている。ここまで気付かれないとちょっと面白くなってくるねぇ。いつ見つかってしまうのか楽しみだよ。
取りあえず大精霊四人のところに行くことにした。四人も他の精霊たちも冷たい表情を向けるだけで手を貸そうとはしないんだね。
「サラマンダー、あの魔法を使ったのは誰?」
「おれは知らない。あいつらと契約しているのは下位精霊だ。中位以上の精霊の加護を受けている奴らはさすがにこの状況を良く理解しているのか、魔法を使おうとはしていないな!」
「焦ってはいるけどねぇ」
中位精霊以上の契約者や祝福を受けている人の方が魔法を使う頻度は高いからね。使い勝手は下位精霊のパートナーよりは分かっているのかな?
「ジェ、ジェフリーも……ままま、魔法は使っ……てない、みたい」
「うんうん、さすがノームが祝福するだけあるよねぇ。ノームが祝福している相手なら信用に足る人物だろうし」
「ナギサ様ぁ、わたしは?」
「君は誰も祝福してないでしょ。もちろんウンディーネでも信用出来ると思うよ。強い精霊ほど穢れに敏感。だから君たち大精霊が祝福している相手はそれが誰であっても信用することが出来るだろうねー。今のところノームしか祝福してる相手はいないけどさぁ」
それを言うなら俺もだけどね。俺は生まれてから精霊を除けばたったの一度も誰かを祝福したことはない。契約したこともない。他の大精霊たちは全員一度はあるんだけどねぇ……
前にシルフは奥さんに祝福しないの? って聞いたら、『祝福することで面倒ごとに巻き込まれてはいけないので祝福はしませんが、子供たちも含めて常に守護魔法をかけていますよ』だって。溺愛してるよねぇ……
「それより良いのですか? そろそろこの状況をどうにかした方が良いのでは?」
「んー……まあ、そうだね。行ってくるよ」
シルフの言う通り、この状況を長引かせすぎるのも良くないだろうと判断し、今度は騒ぎがある方に歩み寄る。すぐ傍まで近付いてようやく俺のことに気付いたらしく、さっきまでとは違う騒ぎも巻き起こった。
どんどん大きくなっていく火を消火し、怪我をした人は治癒して、燃えた物も元通りにする。何事もなかったかのように全てが片付くと騒ぎは収まった。怪我をした人の中には結構重症だった人もいたようで、恐怖で呆然と座り込んでる人も多い。
「───こんばんは、今宵は月が綺麗ですね。ところでこの騒ぎは何なのでしょう? ……なんてね。少しお話ししようよ」
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