28 怒れる王
「……あの、期待させて申し訳ないですが僕もほとんど何も知りませんよ。もし精霊殺しによる呪いなのではないか、という推測が本当だったなら一つ気になることはありますが」
「シルフでも知らないことがほとんどなんだぁ……ちなみにその気になることっていうのは?」
「断言は出来ませんよ。下位精霊になりますが、最近見かけていない風の精霊がいるのです。風の中では比較的弱い方だったので何かあったのではと心配で……一緒にいるのを見かけることが多かったので少し前にランを呼び出して何か知っていることはないかと聞いたのですが、情報は出てきませんでした」
ランを呼び出して知っていることはないかと聞いた、というのはナギサが人身売買に首を突っ込んでいた日のことだろう。
「そっかぁ。わたしも皆が知ってるようなことしか分からないよ。せっかく集まったのに新情報は一応シルフの気になること、くらいかな……」
「う、うん……」
ノームはまるでウンディーネに対して怯えているかのようだ。ノームがおどおどというかビクビクと言うか、気弱そうなのは昔からだが、傍から見れば何かされたのではないかと問いたくなってしまう。当然、彼らがいじめのようなことをするはずもなく、むしろ仲は良すぎるくらいなのだが。
ウンディーネの言う通りお互いに収穫はなかったので、まだ集まったばかりだが解散することになった。ちなみにシルフが気にかけていると言っていた話については、ウンディーネからナギサに話しておくということで話がまとまった。
この時はまさか、精霊殺しの呪いが確信に変わったことなど知りもしなかっただろう。
◇
「王様、大丈夫?」
「んーなにが? どうしたの、リー。遊んでくるって言ってなかった?」
ジェソンさんとの今後の話し合いを終え、アルフォンスくんは宮に寝かせたまま彼を王城へ送った。無論、周囲には俺のことがバレないように気を付けて。
精霊が惨殺されたことを知り、気付くことに遅れた自分自身や犯人への怒りは募るばかりで、さっきから何度も扇を仰いでる。
浄化魔法をかけて怒りを鎮めているんだよ。俺が感情のままに暴れると恐らく国どころか世界が亡ぶからね。
でもどれだけ怒りを鎮めようとしても無駄な気がしてるんだよ。一向に怒りは収まらないからさぁ……だってねぇ?信じられる?苦しめて苦しめて、あれだけ強大な呪いになるほど惨い殺し方をしたんだよー? 自分の私利私欲のためにね。まともな理由があったのなら百万歩くらい譲って、何とかなんとか納得することも出来ていたかもしれない。
だけど実際には自分の私利私欲によるもの。何故そんなことが分かるか? 殺されたことさえ分かってしまえば、いくらでも確認のしようがあるんだよ。そうして殺されたのが、自分の仲間である以前に我が子同然の子となれば、怒るのも仕方ないと思わない?
怒るのは疲れるから嫌いなんだけど、嫌いだからといってどうにかなるものじゃないよねぇ……今はアルフォンスくんに掛けられた呪いの浄化と犯人を探し出すことくらいしか出来ないんだけどさ? それでも……分かっていても怒りは湧いてくるんだよ。
ご覧頂きありがとうございます。よろしければブックマークや広告下の☆☆☆☆☆で評価して頂けると嬉しいです。




