91 彼らの名を
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「────遅い時間にも関わらず集まってくれてありがとう。あまり堅苦しい場にするつもりはないから、席に着いて話さえ聞いててくれたらあとは自由にしてて構わないよ。食事を楽しむなりお酒を嗜むなり、楽に過ごして」
一度全員席に座るよう声をかけて軽く説明した。今日は俺が狙われている理由について予想していること、黒幕の情報共有、最終決戦の日程や場所、誰が何の役割を担うかの話し合い、最後に質問があれば……という順で話す。
今日集まってもらったのはレン、アリス、エリオットくん、国王、大精霊四人と各属性の幹部。地からルナ、水からルー、リーとミサ、火からメル、風は本当はランの予定だったからいない。他にも王弟殿下率いる王宮魔法師団や一部騎士団員など協力者はいるけど、そちらにはここに呼んだ人達に情報を共有してもらう。
「先に伝えておくけど……実はこの戦い、元は俺から仕掛けたものなんだよ。詳細は後に話すけど結構酷い話だということを心に留めておいてほしい。それでも協力してくれるのなら話を始める。協力をやめるというのなら今のうちだけどどうする?」
「私の気持ちは変わらないよ。たとえナギサ様に原因がある争いだとしても、頼まれたなら国家規模でない限りいくらでもこの身を捧げる。それが私にできる一番の恩返しだから」
「……そう」
みんなレンの言葉に頷いてくれる。この場から出ていきたいと言う人がいないことを確認し、話し合いを始めることにした。
「まず大前提として、ここでの話は秘密厳守。口外した場合は悪いけど容赦しないよ。もちろん俺が許可を出してある協力者は除くけど」
これは言わなくても分かっていると思う。だけど念のため。楽にしていいとは言ったけど、これから始まる話が俺達どころかもしかすると世界の命運にも関わるかもしれないため、緊張した雰囲気が漂っている。精霊と全面戦争するとなると街や国、もっと言うなら大陸も無事か分からない。
「じゃあ話すね。今回俺を狙っているのは『クロゼルマーレ』という名の一族。俺の記憶が正しければ隣国、ヴェリトア帝国にある森の奥深くに開けた場所があって、そこに建った大きな洋館に住んでいたと思う」
「『クロゼルマーレ』は、我がヴェリトア帝国の言葉で『死神』を表しています」
「そう。彼らは死神の名に相応しく、自分達の基準に沿って人々を殺していく暗殺者一族だよ」
「なぜそのような人物に狙われているのか分かりませんね。その基準とやらにナギサ様が当てはまったのでしょうか?」
「暗殺対象の基準が何なのか知らないけどそれは違うだろうね。狙われている原因は、俺が彼の一族を滅ぼしたから。正確には一家の当主と兄だけ生き残っていたみたいだけど」
彼らのご両親、他の兄弟、その他身内は全員俺の手で殺した。精霊も手を貸していたけど、それは俺の命令だと分かったんだろうね。だから俺が狙われている。その俺も世界の命令で、しかも強制力まで使って無理矢理手を下すよう動かされていたわけだけど、まあそんなことは言い訳でしかない。世界にですら使用制限が設けられている絶対命令の『強制力』を使われていようと、手を下したのは他の誰でもない俺自身なのだから。
二人がまだ生き残っていたのは超人的な強さを誇る一族が命懸けで守り抜き、その存在を俺に悟らせもしなかったからだろうね。精霊の目まで欺くだなんて、さすがとしか言いようがないね。
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