90 水と火の争い
「ふふ、私は難しければ難しいほどやりがいを感じるよ? 一生勝てないであろうナギサを何年もずっと追いかけ続けてきたくらいだもの」
「そう? じゃあ勝負は筆記のみの総合点数で良い?」
「分かった。次の試験までに飛び級の申請をしておくわ。久しぶりに本気で勉強する気になってきた……!」
「がんばれー」
俺は今更勉強することなんてない。必要な知識はすべて頭の中にある。
「その顔で何でもできるって羨ましいわ……私も負けないように努力しないと」
「無理しないようにね」
「もちろん」
「……シルフー?」
「はい」
「酔った。気持ち悪くて今魔法使えないから浄化魔法かけて。あと君の息子の酔いも醒ましてあげて。そろそろ話し合いを始めるよ」
「承知致しました。エリオットは……少々叱っておいた方が良さそうですね……」
あーあ、哀れだね。自業自得でしかないけれど。酔っても色気が増すだけで迷惑はかけないタイプだけど、あれは相当飲んだ後の顔をしている。父親なだけあってシルフにもそれが分かったらしく、軽く眉を顰めていた。シルフのようなタイプは怒ると怖いよー。
「ね、ナギサは一杯も飲んでなくない?」
「……お酒は弱いって言ってるじゃん」
「こんなに弱かったっけ」
「転生前もこの体はお酒を飲んでたみたいだけど、年々飲めなくなってる」
謎でしかないよね。別に構わないんだけどさ、魔法を使おうとすると気分が悪くなるのだけはやめてほしい。この体も酒耐性を付けた方が良いかもしれない。
「ナギサ様!」
「なに……ちょっ、離れて! 燃えるから!」
「ああ悪い。水の領域は相性が悪いからな!」
いつもの勢いで話しかけてきたサラマンダーは燃え盛る炎を身に纏っていた。たしかに火と水は相性が悪い。それは知ってるけどここまでする? 普通に結界を張るくらいで大丈夫なはずだけど……
「なんでこんなことになってるの……? いつも以上に暑苦しいよ。物理的に」
「ウンディーネを怒らせてしまった!」
「馬鹿でしょ……」
なんで水の領域でウンディーネを怒らせてんの。何をしたのか知らないけど、ウンディーネを怒らせて攻撃でもされたの? ただでさえここは魔力の消耗が激しいだろうに、水魔法の攻撃はやばいでしょ……
珍しく焦ってると思ったらそういうことだったんだね。
「ちょっとウンディーネおいでよ」
「はい」
「機嫌が悪そうだねぇ……何があったの?」
「酔ったサラマンダーにお酒をかけられたからお返しに水をかけてあげたの。ねぇ?」
「あ、ああ」
ウンディーネは目が笑ってないし、サラマンダーは後退ってる。珍しい光景過ぎて不謹慎だけどちょっと面白い。不穏な気配を感じてこちらを見てる人達、サラマンダーを教訓に悪酔いはしないようにね。
「……喧嘩は良いけど、そろそろ話し合いを始めたいから大人しくしてて。話の邪魔をしたらウンディーネは火山、サラマンダーは海中に飛ばすから」
「わたしは悪くないのにぃ……」
「返事は」
「はぁい……」
「わ、分かった。これ以上は本気で勘弁してほしいからな!」
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