87 紙一重
「俺がここに来た理由はランの話を聞きたかったからだけど……そういえば、クレアちゃんって王宮魔法師団の副師団長だったよね。ランが消滅して魔法が使えなくなったはずだけど、今後どうするか決めた? 望めばいくらでも祝福してくれる精霊はいると思うけど」
「いや、あたしはラン以外考えられないからそれは遠慮するよ。魔法師団は退団して今後は当主としての仕事に専念しようと思う。これはもうミシェル様とも相談してあるよ」
ランの話が終わり、二人に対しての怒りはないからいつも通り話すように言って、ようやくクレアちゃんらしい口調に戻ってくれた。クレアちゃんに敬語を使われるのは違和感があるからあまり好きじゃない。
「そっか、頑張ってね。それじゃあ俺は行くよ。また遊びに来るね」
「ありがとうございました」
レンと二人、海辺まで転移する。時間が経つのは早いもので、朝早くに集合したのにも関わらずもう日が暮れ始めていた。
「……ナギサ様、泣いても良いよ。私なら受け止めてあげられる」
「ふふ、レンは優しいね」
冬の海辺は静かなものだよ。日が暮れ始めたのもあるけど、近くに王都があるのにも関わらず静まり返ってる。
「大丈夫、泣かない。俺は泣かないよ。だけどあの男は許せない」
すべては俺から始めたこと……いや、世界から始めた戦いかな。世界にも事情があったのかもしれないけどね。それでもやっぱり許せないよ。
『透明な糸のようなもので攻撃してきた』。……そんな人、俺は赤い髪に黄色の瞳を持つ、黒幕の兄だと言っていた彼しか思い浮かばない。
「幸せと不幸は紙一重だよねぇ……」
その存在があるから得られる幸せもあるし、その存在がなければ不幸にはならなかっただろうって出来事もあるし。ああでも、勝手に不幸だと決め付けるのは失礼だね。本人はそう思っていないこともあるだろうし。
「宮に帰るよ、レン。今夜は食事会も兼ねて作戦会議をするつもりだからね」
「分かった」
「今日は俺の宮に泊まっていきなよ。王城には連絡を入れておくから」
「たしかに夜遅くに王城に帰るのは大変だからそうさせてもらえると助かるよ? でも精霊王の宮は私が泊まっていい場所だとは思えないんだけど……結構神聖な場所ってイメージが強いから」
「んー……まあ、宮の中に入れば大丈夫なことくらい一瞬で分かるよ」
普段精霊が自由に遊びまわっている俺の宮が神聖なはずがない。俺の宮で神聖な場所と言えば、風の宮にある浄化の間くらいのものだよ。さらに言うなら四つある中でも特に水の宮は騒がしい。
精霊にはもう宮に入る許可を出しているし、最終決戦に協力してくれる人も集まっているだろうね。
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