75 世話の焼き方
「食に興味なんてないくせに、甘いものだけはいつも美味しそうに食べるよねぇ……」
「甘いものは正義だから。特に今日は疲れてるから甘味を欲しているんだよ」
無心で用意してくれていたものを口に運ぶ俺を、アリスは頬杖を付いてずーっと見つめてくる。顔に何か付いてるんじゃないかって思うくらいには夢中になってる。
俺の顔を見たところで何の面白みもないだろうに。そうして見ていても様々な種類のスイーツが口の中に消えていくだけだよ?
「たしかに疲れている時は甘いものがより美味しく感じるけど、食べ過ぎると太っちゃうから困るよね」
「……それをさぁ、目の前で絶賛食事中の人に言う? 俺はこれでも体型に気を遣っているんですけどー」
「あなたはもう少し食事量を増やしても良いと思います。ただでさえ少食なんだから好きなものくらい満足いくまで食べなよ」
俺の頬と脇腹を指で突いてくるアリス。太るって言ったのはアリスでしょうが。自分に対して言ったのかもしれないけど、しっかり俺もダメージ受けるからね。
「この、スタイル抜群男め……意識してるのもあるだろうけど、あのご両親の息子なんだから生まれつきスタイルが良いというのもあるでしょう。世の女性の敵だわ……羨ましい」
「君には言われたくないよ。それより俺の世話をするんじゃなかったのー?」
「そうだけど、何をすればいいのか分からなくて」
「あー……」
アリスも日本屈指の名家のお嬢様だったもんね。今世は平民だけど元々自分のことくらいはしてたから困らない。だけど誰かの世話をするとなるとどうするべきか分からない、ってところかな。
「なるほどね?」
「なんでそんなに嬉しそうなのかな」
「いやいや、嬉しそうだなんてそんな。俺はお風呂に入ってくるね!」
それなら俺にとっては都合がいい。こういう時はチャンスだと思って、アリスが妙なことを考えつく前に逃げるに限るよ。
「ナギサ」
「……ちょっと、手を離していただけないでしょうか。俺は今とんでもなく嫌な予感がしています。背筋に悪寒が走りました」
このタイミングはさ、もう言いたいことが分かるんだよ。恥じらいと言うものはご存知?
「一緒にお風呂」
「無理」
「まだ言い終わってない! たまにはいいじゃないの。普通こんなにかわいい女の子とのお風呂を断る?」
「たしかにかわいいけど自分で言うんだね……」
普通は提案するのが男性で嫌がるのが女性な気がする、と頬を膨らませて言ってくる。その『普通』というのが誰基準なのか知らないけど今日だけは絶対に嫌だね。だってお世話するって言ってたから俺の体を洗おうとしてくるでしょ。
「俺は人に肌を見せるのが嫌いなの」
「……嫌だと言うのなら強要したくないけれど」
「嫌というか、また傷を見ることになるよ。綺麗ではないから必要以上に見せたくないなぁって」
俺の腹部にある古傷。手術跡で古傷だからか魔法でも消えないやつ。手術跡っていうより誰かに斬り付けられた傷に似てるんだけど、どちらにしても好きな子に見せたいものではない。
「ナギサは何かを勘違いしてるんじゃない?」
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