73 無意識に
「アリス、ただいま。やっと終わった!」
「あら、おかえりなさい。思っていたより元気そうだけど……大丈夫? お疲れなんじゃないの?」
「……そんなことないよ?」
「ん?」
「ごめんなさい。疲れ過ぎてさっきまで廊下に倒れてました」
これくらいは許してくれないかなって思ったんだけど、アリスは疲れも隠させてくれないらしい。結構うまく演技できたと思ったんだけどね? 恋人の目は誤魔化せないの?
「よろしい」
「なんで分かったの?」
「ナギサって自分では気付いていないと思うのだけど、本気で疲れている時は私にだけそれを隠そうとするんだよね。逆に少し疲弊している程度の時は素直。その事実を知っているのは、隠そうとするのが私に対してだけだからだよ?」
「……そんなところ見なくていいって。俺ってそんな癖があったんだ」
次から気を付けよ、とアリスに聞こえるかどうかくらいの声量で呟くと、それはそれは綺麗な笑顔を向けられた。こういうのはしっかり聞かれちゃってるんだよねぇ……
アリスと朝に話した時、『努力する』って約束しちゃったからさ? ……どうしようね。このままではどんどん俺の仮面が剥がれていっちゃう。
「自分では気付けない癖って意外とあるものだねー」
「これも癖だったりします?」
「ん?」
「人目が少ない時に顔を合わせたら一旦抱きしめてくるこの状況。これは?」
半分無意識。これもある意味癖なのかもしれない。
「分からないね。それよりアリス……なんかいつもと違う匂いがする。これなに?」
「えっ……私っていつも何の匂いがしてるの?」
あー、申し訳ない。悪い意味で捉えちゃったかな。全然そんなつもりはなかったんだけど、たしかに女の子に直接言う言葉としては場合によっては失礼と思われるかも。
「ごめん、そうじゃなくて。なんだろうな……アリスって陽だまりのような、春に咲く花のような甘くて優しい香りがするんだよ。これはたぶんシャンプーや香水の香りじゃなくてアリス特有のものかな。落ち着くから俺は大好きだよ」
「なるほど……? 自分では分からないんだけど、お兄ちゃん達家族とは違うのかな」
「違うけど、この香りに気付くのは俺くらいだと思う。俺は鼻が良いからこの香りを感じるけど、他の人なら恐らく気付かない。匂いの強さとしてはその程度」
いいんだよ、俺だけが知っていれば。基本的に毒も薬も効かない俺だけど、アリスのこの香りだけは催眠効果がある気がする。純粋な感想だから間違っても変態とか思わないでほしいけどね。俺だって望んでここまで鼻がいいわけではないんだから。
「ナギサがいつも私を抱き枕のようにして眠るのはそれが理由?」
「正解。で、この香りは?」
「うーん……あ、分かったかもしれない。ちょっとこっちに来てくれる?」
「はい」
広間から俺の私室まで手を引いて連れて行かれた。いつも通る道なのにも関わらず迷いそうになってたから、途中で行き先を聞いてアリスと立場を交代したけどね。
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