66 精霊王の側近である理由
「ではティルアード王国から報告致します。まずは昨年、王太子であるアルフォンスが呪いに侵されていました。王太子の不調は時に国家機密にも関わりますので沈黙を貫いていましたが、精霊王様により完治しましたのでここに報告致します」
メインとも言える各国の報告会が始まり、結構ハードな一年だったんだろうなと感じる国もあれば、特に何もなく平和だったらしい国もある。報告だけでなく次の一年で予定していることを事前に伝える国や軽く忠告をしている人もいる。それもあってか、それぞれ報告後に質問等を聞く時間を取ってるね。
それぞれ淀みなく報告や質問をしているのを見るに、みんなしっかり報告の準備をして、他国のこともある程度調べていたんだと思う。慣れを感じるよ。
それにしてもジェソンさん、いきなりアルフォンスくんの話をするんだね。時系列順に報告するのが暗黙の了解になっているから当然なのかもしれないけど、聞く側からしたら初手からとんでもない爆弾発言だよね。
「それから、精霊王様が解決してくださった筆頭公爵家の令嬢や王宮魔法師団の副師団長という、簡単に捕らえられる相手ではない人物も含めた人身売買の未遂事件、不発ではありましたが精霊狩りもありました。そして一番最初に報告した呪いの件ですが、きっかけは精霊様が殺されたことです。それに関わっていた……つまり、精霊様を殺害したのは三人、うち一人はティルアード王国の王弟でした。現在は王族籍を抜いたあと精霊王様より罰を受けたのですが、その後何者かに手を下され死亡を確認しています。王弟の死去については事前にお伝えしていましたが、死因は報告の通りです」
次から次へと報告されるこの一年、ティルアード王国で起こった出来事。部屋の空気が完全に凍りついている。まあ普通は起こり得ない事件がたったの一年でこんなに起こったのだと聞いたら、さらに言うとそのすべてが精霊に関わっていると知ったなら、こうして空気が凍りついているのも不思議じゃない。
どの精霊王もその時代において最強にして最恐なのは周知のことだからさ、俺がこうして平然と座って聞いているの疑問を覚えている人がほとんどだろうね。さっきから視線を感じるし。
俺からの報告はそのことも含めて話そうかな。これらのことはすべて俺にも非があったのだと知ったから、俺が怒りを再発させて暴走しないように押さえつけるのをやめてほしいよ、ルー。
国王や皇帝が席についているのは当然。王妃、皇后、側近のようにパートナーとして一緒に参加している人たちは端に席が用意されている。その人たちは基本的にその場から動かないんだけど、何かあれば移動可能。そしてルーはわざわざ俺の隣まで歩いてきて、どうしたのかと思えば何でもない顔で俺の腕を抓りだした。
「ねぇ……何してんの。痛いんだけど」
「一瞬殺気を感じましたので念のためです。記憶の中から怒りを引っ張り出すのはご遠慮ください」
「分かったから戻ってよ。さっきも言ったけど痛い」
「承知致しました。では手は離しますがしばらくここにいますね」
魔力が乱れておられるようなので落ち着かれるまでは、と一歩後ろに下がった。あの時の殺意を思い出したのはほんの一瞬。誰からも恐怖を感じないから殺気だって隠せてたと思うよ。きっとルーしか気付いてない。こういうふとした瞬間の行動で思うよ、なぜルーが何百年も俺の側近で居続けられたのかがよく分かるなって。この子はずっと『中位精霊ではあるけど大精霊に匹敵する実力者』という立ち位置を守り続けてる。精霊は努力次第である程度は強くなれる。つまり強い精霊は年々増えているわけなんだよ。それでもこの肩書きが奪われないのは単にルーの努力あってこそなんだろうね。
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