63 書類を睨んでも
「わぁ……すごいね。似合ってるよ。この衣装本当はこんな感じだったんだ」
「ん、これが普段の衣装に色々と足しただけだってよく分かったね。結構印象違うと思うんだけど」
「たしかに印象は違うけど全体的に見ると似ている部分もそれなりにあったからね。それにしてもさすがは精霊王、シンプルなのにしっかり煌びやか。私だったらこんなの絶対に着こなせないなぁ」
約三十分ほどの時間をかけて準備を終え、アリスがいる広間に行くと俺のことを待っていたのかこちらに駆け寄ってきてくれた。俺ならこれが元々着ていたものだとは気付かないと思う。そう考えるとアリスは人をよく見ているのか、それとも俺が他人に興味がないだけなのか……
ちなみに、何度も言うけど会合で集まるのはほとんどが王。そうじゃなくても重鎮であることに変わりはないので、護衛を除いて武器やアクセサリー等を所持したまま会議室に入ることは禁止されている。持ち込んで良いのは必要な書類のみ。それは暗殺等の攻撃を防ぐため。
だけど俺がそんなルールを守るはずもなく、当たり前のように堂々と持ち込むつもりでいる。アリスとの婚約指輪は外したくないし、扇は俺や周囲の命を繋ぐものでもあるからね。指輪は私情でしかないけど、扇の方はなければ魔力貯蔵庫の役割を果たせず、いつどこで暴走してもおかしくない状態になる。まあ何か言われるだろうけど無視すればいいだけの話だから問題ない。
「俺は少しだけ書庫に寄ってからそのまま王城に行くけど、アリスは今日何するのー? 俺の世話をするとか言ってたけど、帰ってくるまでは暇じゃない?」
「ふふ」
「怖いよ?」
「失礼な。私のことは大丈夫、ちゃんと予定があるからね」
それならいいんだけど……その辺の男なら美しいとしか思わないであろう綺麗な笑顔だけど、俺は付き合いが長いから分かる。これは何か企んでる笑みだよ。絶対そう。間違いない。
「変なこと、危ないことはしないようにとだけ言っておくよ」
「うん、頑張ってね。帰ってきたらいいことがあるかもしれないから、楽しみにしててほしいな!」
「分かった。じゃあまた後でね」
よく分からないけどアリスの言葉に頷き、書類を取りに行くために書庫に転移した。相変わらずの本の数で紙とインクの香りが落ち着くけど、今はゆっくりできない。ちょっと恨めしいけど仕方ないねー……
「そんな顔で書類を睨んだところでどうにもならないでしょうに……」
「見ないでよ」
嫌々参加しようとしてるのがバレるじゃん、と続けるとそんなこと最初から分かりきっていると返された。まあ隠す気はないからバレていても構わないんだけどさ?
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