52 彼の名前は
「こーんにちは。久しぶり」
「うん、久しぶりだね。だけど挨拶は良いから窓ではなく、ちゃんと扉から入ろうよ」
「王城内、みんな忙しそうだし人が多いじゃん? 俺が歩いてたら使用人には迷惑だし、各国から訪れた人達にも必要以上に関わりたくないの。絶対めんどくさい」
「気持ちは分かるけど……まあ今年は会合に参加する意思があるだけ偉いかもね」
俺の前で優雅にティーカップを傾けているのはレンことリューク・エレン・ヴェリトア。話し方も性格も柔らかいのに文武両道で芯の強さも感じられ、容姿は何十年経っても衰えるどころか美しさを増している。まさに非の打ち所がない完璧すぎる皇帝。
「レンはさぁ……結婚とかしないの? 婚約者すらいないでしょ。野暮だけど皇帝なら跡取りがいるでしょ。そのスペックなら相手には困らないだろうに」
「何を思っていきなりこんな話をしてきたのか分からないけど、それをナギサ様が言うかな? 気怠げに頬杖をついているだけでこんなに絵になる人、他にいないと思うけど」
「ん……俺のことは良いんだよ」
「眠いの? 私の前だと安心して急に疲れが出るって言ってたっけ。でも私相手に色気マシマシにしないくて良いよ……私は一般的に見れば若くないけど皇族だから寿命は長いし、まだ数十年くらいは子が残せる体でいられると思う。だからまだ急がなくて良いかな。直系じゃないけど優秀な王太子もいるからね」
「ふーん……まあ、レンが良いなら俺が言うことはないけど」
結婚=幸せもないし、それなりの立場にいるなら決められた道筋を行くのが普通だろうけど、俺は自分の好きなように生きれば良いと思う。生まれた時から決まっている人生なんて何も面白くない。
「うん。それよりナギサ様、やっぱり私のことをレンって呼ぶんだね」
「新鮮で好きって言ってたじゃん」
「皇帝である私をミドルネームで呼ぶのも、それをさらに愛称にするのもナギサ様だけだよ」
「知ってる。ふふ、特別感があるから俺は気に入ってるよ」
彼のミドルネームは『エレン』。エレンだからレン。俺しかこの呼び方をしないのなら分かりやすくて良いんじゃない?
レンの方も俺のこと呼び捨てしてくれて構わないのに、言う度に断固拒否される。敬語は無くしてくれたけど精霊王を呼び捨てはさすがに無理なのだと。そんなの今更だろうに。
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