48 愛妻家の
社交ダンスは一曲が短い。ウンディーネと話しつつ音楽に合わせて踊っているとすぐに終わりが来た。お互いに一礼してミシェルさんのところへ戻ろうとすると、俺達に向かって一気に人が集まってくる。これはマズいと思っているとウンディーネが近寄れないように結界を張ってくれた。
おかげで人混みに埋もれることはなかったけど、改めてナイジェルの姿だと堂々と魔法を使えないから不便だねぇ。
恐らくウンディーネに一曲申し込もうとしていたんだろうね。俺のことばかり言ってたけど、ウンディーネは中々見かけないレベルの美少女。きっと彼女が踊っている姿はすごく魅力的だったんだと思う。
「お二人とも、さすがのカリスマ性ですね」
「あたしもナイジェルに踊ってもらおうか」
「駄目です。クレアは私の妻です」
「心配なさらずとも、もう帰るつもりなので踊りませんよ。お二人はまだ残りますか?」
ミシェルさんが溺愛してるのを知ってて目の前で踊ったりしないよ。冗談で言っているのだと思うけど、そんなことをすればミシェルさんに視線で殺されそう。本当ならもっと早く帰るつもりだったし、予定通りしっかり爪痕は残せたと思うからこれ以上この場にいたくない。
失礼だと思いつつ、俺はシュリー家に挨拶に行っていないから今日はまだ遭遇してないけど……何となく、遠くから感じるセインくんの視線がよろしくない気がしてる。彼の方から寄ってくる気配はないけど、対面しちゃうと少し……どころではなく、かなり俺にとって不都合な状況になりそうなんだよね。
「あたしは残ろうかな」
「それなら私も一緒にいようと思います。お二人で帰るのでしたら夜道に気を付けてくださいね」
「分かりました。では私達はこれで失礼します」
いまだに注目を浴びてるし、帰るのを止めたそうな視線も感じるけど、俺がそんな気持ちに応えてあげるはずがないんだよね。未練がましくてみっともないよ?
来た時と同様、屋敷の外まではウンディーネをエスコートして、周囲に人がいないことを確認した後に水の宮へ転移した。
やっと帰って来られたと思って変装を解き、そのまま廊下に座り込もうとするといつの間にかウンディーネが俺の隣から消えていた。
外から気配を感じたので確認すると、海の奥深くに潜っていくのが見えた。たぶん本人が思っていた以上に疲れていたんだろうねぇ……
「お疲れ様。一緒に来てくれて助かったよ、ウンディーネ」
ゆっくり休んでね、と誰もいない空間へ呟くと祝福のおかげで声が聞こえたのか『ナギサ様も』と返事が返ってきた。
セインくんが黒幕と繋がっているとほぼ確信しているから勝手に忍び込ませてもらったけど……何も情報は得られなかったね。だけどこの先、少なくとも半年は社交をしなくて良いだろうし、意味のない時間ではなかったと思う。
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