44 忍び込む者
筆頭公爵家主催の夜会というのは、彼らからすれば小規模でも一般的には王家主催とそう変わらないほどに人が集まる。今回は不参加のようだけど中にはランスロットくんの生家であるリーメント公爵家のような重鎮も少なくない。
各々連れてきている護衛がいるとはいえ、自家主催の催しで何かあったら大変。となるとこの家の護衛騎士はほとんどが会場のパーティーホールに集まっているわけで。
「いくらセキュリティが万全な公爵家と言えど、もう少し全体を警戒するべきだと思うなぁ……じゃないと、俺のような悪い奴にいくらでも忍び込まれちゃうよー」
こうして屋敷内を歩いているとたまに人の気配は感じる。だけど大体は騎士のように鍛え上げられた者ではなく侍女や侍従などの使用人。俺の気配に気付けるはずもない。
「とはいえ精霊やその道のプロくらいしか忍び込めないだろうね。警備は手薄でもセキュリティはさすが。……ああでも、魔族やエルフ族なんかもそれぞれの特性を生かせばいけるかも。まあそれが誰であったとしても忍び込まれている時点でセキュリティとしてはアウトなんだけどねぇ」
俺の他にもこっそり会場から出て生活区域に忍び込んでる人とかいないかな? バッタリ遭遇したら絶対笑ってしまう。
「……ここかな。お邪魔しまーす」
訪れたのは屋敷内の一室、シュリー家の次男で俺の友人でもあるセインくんの部屋。公爵家なだけあってあり得ないくらい広い。落ち着いた雰囲気でセインくんらしいね。俺なんて無駄に広い私室に置きたいものがなさすぎて、精霊達の好きにさせちゃってる。
センス良いし、俺の部屋も良い感じに調度品とか並べてくれないかな? ……じゃなくて。
俺がここに来たのにはちゃんと理由がある。何とは言わないけどね、精霊の勘は良く当たるから念のため。
一々棚の引き出しとかを漁っていてもこの広さではキリがないから、魔法を使って透視させてもらった。見られたくないものとかあるかもしれないけど、黙っておけばバレないでしょ……
「………優秀な人が残ってたかぁ」
「……セイン様? 失礼致します」
たぶん俺の気配に気付いたんだろうねぇ。この部屋に向かってくる足音が聞こえた数十秒後、案の定この屋敷の護衛らしき人間がノックして入ってきた。
「───っ!」
「すみません。私もやらないといけないことがあるもので」
セインくんは夜会の会場にいるはずなのに、部屋の中から気配を感じるのはおかしいと思ったんだろうね。部屋の中に声をかけたくせに返事を待たずに入ってきた。
もちろん俺は後で報告されるわけにはいかないから、姿を見られる前に首筋に手刀を入れて気絶させたけど。
「不意打ちだとしても弱すぎない? 気配を消した俺に気付いたくらいだから相当な手練れだったりするかなって思ったんだけどな。これだとセインくんの方が強そう」
恐らく俺からしたら弱いというだけで、精霊を相手にしなければ相当強いのだろうとは思う。でもさ、君の主人であるセインくんよりは強くあるべきじゃない? 護衛騎士でしょ、その服装。セインくんはたぶんだけどその気になれば下位精霊を相手にするくらいはできるはず。あーでも、セインくんも品行方正な王子様のくせに異常に強いから……彼と比べるのはかわいそうか。
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