9 精霊王の瞳の奥は
◇
「───いつまでこんなことをさせるつもりですか」
「それは言うまでもなく、勝利の確証を得られるほど十分な情報を集めることができるまで」
「これ以上話すこともありませんけど」
「ああ、お前の記憶にあることはすべて話し終えたようだ。だがお前が忘れているだけのことがあるかもしれないだろう? こっちも命懸けなんだ。俺にとってお前ただの駒に過ぎない。たとえ国としては重要な人間だったとしても、だ」
このクズが……心の中ではそう罵るが口に出すことはできない。どんなに足掻いて藻掻いても彼には敵わないだろう。目の前の悪魔の強さを知っていてもなお、これだけは確信している。この世で最も美しく恐ろしい、精霊王の前では屈するしかないだろう、と。
彼の性格の褒められる点も山ほどある。だがそれは本当に心の底から気を許した人間にのみ適用されることであって、彼にとって本当の意味で守るべき対象にならない者からすると彼の短所は長所を遥かに上回る。精霊王と敵対する以上、この人もいずれは精霊王の本性を知ることになる。その時はすでに後戻りできないところまで行っていること間違いなしだが自分はやめた方が良いなどと注意するつもりは毛頭ない。
「つまり、今度は僕の思考までも操ると?」
精霊王ナギサは魔法ありだと言うまでもないが、魔法なしでの戦闘や頭脳戦においても最強と言えるだろう。だが一番自分が恐ろしいと思った点は他にある。それは彼、精霊王ナギサの『闇』だ。
見れば見るほど美しい瞳を持つ精霊王だが、育った環境ゆえに大体瞳を見れば人の本性が分かる自分でさえ底が見えなかった。こう見えて人の本性を探るのはかなり得意な自信がある。それこそ何百人、何千人と探ってきて一度も外したことがないくらいには。だが精霊王だけはあまり深淵を見てはいけない気がした。それでも探ってしまったことには後悔しかない。
彼の瞳には本当に生きているのかと……そんな当たり前のことを疑ってしまうほどに闇が広がっていた。どのような人生を送ればあれほどの闇を抱えることになるのだろうか。恐らくあの闇をまともに見れば正気を保つことはまず無理だ。悲しみ? 苦しみ? どのような感情が原因なのだろうか。謎は深まるばかりだが一つ断言するならば、精霊王は本当に強い。あれだけの闇を抱えているのだから繊細な心を持っているのは言うまでもないが、それを何百年という長い時間耐えている。
繊細であるために闇は大きくなり続けるがそれを耐えてきただけあって精神的にも強い。それに加えて魔法に頭脳。そうせざるを得ない理由があるとはいえ、自分が目の前の美しくはあるが嫌悪感しかないこの男に協力しているのは精霊王ならばこの男を倒すことができると信じているから。自分が嫌われようと殺されようと、彼や僕の大切なものを守れるならば本望ですよ。
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