110 あの頃は
「で? アリスは俺のこと好きなの? 俺は世界で一番愛してるよー」
「私も好きだよ」
「嬉しいよねぇ……もう会えないと思ってた人とこうしてまた一緒にいられるなんて。幸せすぎてどうにかなりそう」
一年くらい前の俺は泣いていた気がする。何年かぶりに、ちゃんと心から悲しいと思って。俺は愛する人は少ないしそう簡単に心を許したりはできないけど、その分一度大好きだなって思ったらちょっと重いんじゃないかって心配になるくらい心変わりしない。良く言うなら一途だね。
泣いたのは家族に会えなくなったからっていうのもあるし、俺があり得ない頻度で吐くくらい重圧だった立場を守りたかった弟に押し付ける形になったのも辛かった。世界規模の財閥のトップ。感情が薄い方であろう俺が弟に押し付ける形になったからと言うだけの理由で泣いた。それがどれほどのことか、俺を良く知る人ほど理解できるだろうね。十七年間耐えた俺が言うんだから辛いのは間違いない。
それでもアリスに直人くんのこととか教えてもらったから、心配はしてるけどとりあえず安心かな。今は素直に幸せを感じていたい。どうせこの平和な時間は長く続かないんだから。
「今度は私より長く生きてね。約束だよ。置いて行かれる悲しみはもう味わいたくない」
「そうだね。安心して、精霊王は魔力枯渇と一例を除いて寿命以外で基本死なないから。病気も怪我も関係ないしねぇ。だから大丈夫だよ、今度はアリスを一人にしないから」
俺もアリスには長く生きてほしい。元々精霊とのハーフだったし、精霊王の恋人だからたぶん俺と同じくらい長生きする。俺もアリスに置いて行かれるのは困るからちょうどいい。
「あのね、ナギサ……せっかく真面目な話をしてるのにずっと耳元で話すのやめてくれない!? 気になって話に集中できない!」
「知ってる。反応が可愛いから離れなきゃと思いつつ動けなかった。だけど元々はお話ししたり甘やかしてほしいって言ってたんだから別に良いでしょ。アリスが言い出したことだよ? 俺はそのお願いを叶えてあげてるだけー。このままで話せるんだから問題ないよ。俺も明日からしばらく会えないから今のうちに充電しておきたいの」
会話の内容だけは真剣なんだよ。でも俺達の姿を見たら全然そんなことはない。向かい合って足の上に座らせ、俺はそのままアリスを抱き締めて耳元で話を続けて。ずっと頬を染めて慌てるアリスをこっそり眺めていた。
「アリスって耳弱いよねぇ」
「ナギサほどじゃないけどね? ナギサは全身弱いじゃない」
「全身じゃないし。俺は五感が過敏だから必然的に敏感になってるだけだし」
アリスとは違うからね。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚が敏感なのは仕方ない。これは生まれつきだからどうにもならない。五感が敏感だと結局アリスの言葉通りってことになるけど……いや、ならない!
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