105 甘々ボイス
「そういえばナギサ、精霊様達はいないの? いつも一人はいる気がするんだけど……」
「そうだねぇ……遊びに行ってるんじゃない? 精霊は気まぐれな性格の子がほとんどだし。たまに俺の軽い命令を無視することもあるよ」
「無視されちゃうんだ? ナギサの言うことを聞かないなんて度胸あるね」
「ちょっと、それはどういう意味かなー?」
隙あらば俺より優位に立とうとするアリス。そうするのは俺のペースに巻き込まれると大変なことになるからと前に言ってたかな。でも精霊が気まぐれっていうのは周知の事実だし、俺をからかうには材料が足りないと思うんだよね。
「言葉通りです! さてナギサ、デートを再開しようよ。いっぱい歩いたのにお昼食べてないからお腹空いちゃった」
「えー……今から外に出るの? 俺はもう動きたくないんだけど。たまには大人しくイチャイチャしよ?」
「外に出ないのは良いけど、イチャイチャはしません」
「……なんで」
「じ……自分の魅力が分かってる! というより、役者としての自信かな!?」
いきなりどうしたんだろうね、アリスは。人の顔を見て急に百面相を始めた。
「か、可愛いとは思ってないからね?」
「別に思わなくて良いよ」
自分の彼女に可愛いと思われたい男の方が少ないんじゃないかなー?
アリスの言葉には……まあ、ちゃんと自覚がありますけども。表情をコントロールするのは大得意だからね。可愛く見せようと思ったわけではないけれど。
「でもなんで駄目?」
「今日のナギサはちょっと甘すぎるから。表情や行動に比例しているのか分からないけれど、いつも以上に声が甘いよ。今の段階で砂糖菓子に蜂蜜を二瓶ひっくり返したみたいな感じ」
「毎度思うけど表現が独特だねぇ。俺ってそんな声してる?」
「うん、してる。吐息多めで色気がすごいから甘く感じるのかも」
「変えようか?」
「大丈夫。そこで声を変えることができるのもおかしい……とは突っ込まないであげるよ」
ナギサの場合は地声の名残もないからね、としっかり突っ込んでくるアリス。矛盾しているのは恐らくわざと。俺の声ってそんなに甘いのかな? 仮にそうだとしても砂糖菓子に蜂蜜二瓶は盛り過ぎなんじゃない? そこまで甘いとさすがの俺でも食べきれないと思う。お菓子やスイーツは甘ければ甘いほど良いというわけでもないからね。
ちなみに、普段は砂糖菓子に蜂蜜を一瓶かけたような感じらしい。例えの表現が一々長いね。
「もしかして、今日のナギサはいつも以上に私のこと好き?」
「いや、いつも同じくらい大好き」
「………あの、今日のデートはここまでってことで良いかな? これ以上一緒にいたらマズい気が……」
身の危険を感じたとでも言わんばかりに後退って行くアリス。あのさ、俺はおかしなことを言った覚えはないんだよねー。ただいつもより甘いというのは───
「許すわけないでしょ。俺、最近すっごくアリスに飢えてるんだよねー」
「さようなら!」
「なに逃げようとしてんの。嫌がることはしないから大人しく俺の腕の中にいてくれない? 明日からしばらく会えないんだし、たまには良いじゃん」
ご覧頂きありがとうございます。よろしければブックマークや広告下の☆☆☆☆☆で評価して頂けると嬉しいです。




