97 怪我なく
「……そんなことだろうと思ったよ。なんで?」
「こういう大変なことになった時って大体ナギサが動くでしょう? もちろんそれはナギサに関係があることだからなのは分かってる。でも私もナギサと同じ視点に立ってみたいなって。私だって無関係ではないよ。……駄目?」
……気持ちは分からなくもない。俺もアリスが一人で危険なことをしようとしていたら、止めることはできなくてもせめて一緒に……って思っちゃう気がするし。だとしても今回ばかりは……
「だーめ。今回は本当に危ない」
「やっぱり?」
「うん。自分の恋人を危険に晒したいと誰が思う? 少なくとも俺は絶対に思わないよ」
はっきり断ると若干落ち込んだ顔になった。でも本当に駄目なんだよねー。自分の問題に巻き込んだことが原因でアリスを失いでもしたら俺は絶対に立ち直れない。俺のためにもここは引いてくれたら助かるんだけど。
「そうだよね。私だってナギサに危険な場所に行ってほしくないもの。でも怪我しないでね」
「戦争に行く夫を見送る妻のような悲壮感……」
「悲しみより心配の気持ちが大きいよ。ナギサなら大丈夫だと信じてるから、私の信頼を裏切らないでくれると嬉しいな」
「その顔やめようよ」
気持ちが揺らぐから。それとも分かっててやってるの……? ほんの一ヶ月くらい離れるだけだから、大人しく待っていてほしい。
「気を付けるから心配しないで」
「はい。怪我して帰ってきたら怒るよ」
「安心して? そうなる前に治癒しちゃうから、俺がアリスに怒られる未来はないよ」
そう言うと、『その場合はしっかり報告してもらうからそのつもりでね』と圧を掛けられた。正直、全く怪我しないのは無理だと思うんだよ。絶対何かしらのトラブルはあるでしょ。今までの経験から考えるとほぼ間違いないと思う。基準が知りたいね。どこまでならセーフなのか。
「四肢が千切れるくらいまでなら報告いらない?」
「……いるに決まってるでしょう。何をしたらそんな大怪我するのかな!? 私はそこまで深刻な状態を想像してなかったんだけど……!」
「あ、墓穴掘っちゃった感じ?」
「うん!」
終わった……元気いっぱいに肯定されちゃったよ。彼女の笑顔から僅かな怒りを感じる。……よし、どれだけ大怪我しても報告しない! 決まり!
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