72 光の王子役は
「それで、話が逸れたけど何を企んでたのー?」
「ナギサ様がこの学園に通うのは一年だけだとおっしゃっていたでしょう? それなら少しでも多くの生徒にナギサ様を忘れないでいてほしいのと、様々な経験をしているであろうナギサ様も一生忘れられないような思い出を作っていただけたらと考えたのです」
「うんうん」
企みの理由は分かった。たしかにみんなより長く生きているからそれだけ色々経験してるし、これからも人間とは比べ物にならないくらいの時を生きる。前世も合わせたらさらに長いね。
「そこで、ランスロットから提案がありました」
「うん。嫌な予感しかしないねぇ」
「学園祭、二年一組の出し物である演劇『光の王子と小さなガラスの靴』の光の王子役はナギサがやったらどうか、と提案した。元々最有力候補はお前だったし、正直俺よりもナギサの方が王子役に合っていると思う」
「うーん……本番はこの後だよ? 俺は何も練習とかしてないんだけど?」
予想以上に嫌なやつだったけど、それよりも気になることが多い。
「アリスに聞いた。ナギサ、お前は演技が得意らしいな。今のクラスが終わっても少し時間が空くから、俺達の番までまだ二時間近くある。頑張れば間に合うだろ」
「……俺はそれで良いとしても、ランスロットくんは今日のためにたくさん練習してたでしょ。俺は人の努力を無駄にするつもりはないよ。それに、いくら演技が得意でもみんなと合わせられなければ意味がない」
これでも俺は前世でかなり売れてた役者。一つの作品を作り上げることがどれだけ大変かは知ってるつもり。学園祭の演劇とはいえ、この学園は何事にも本気で取り組んでる。それこそ、この世界の劇場で演じられるくらいには。そしてそれはこのクラスも同じ。
「それは大丈夫だ。学園長に事情を話してこのクラスだけ後日、もう一度観客の前で演じる。まあそれは学園の生徒だけになるが」
「ナギサ様の演技の傾向を聞いておいたので、合わせられるようにも準備しています」
「ついでに衣装もナギサのサイズで用意されてるって」
「……俺に断らせる気ないね。みんなはそれで納得したの?」
完璧に外堀を埋められているんですけど。何が何でも俺に王子役をやらせようとしてるみたい。
「それはもちろん、みんなで話し合って決めたことですから」
「………分かったよ。これ以上断る理由もないし、ここで俺がやらないと言った方が大変そうだしね。でもやるからには本気でやるよ?」
「はい!」
そう……もう諦めた方が良いやつだよね。最終確認のつもりだったんだけど、すっごい意気込みだね。そこまでして俺に王子役をやらせる意味があるのかは分からないけど……もうやるしかないみたいだね。正直嫌で嫌で仕方ないし、今すぐにでもここから逃げ出したいんだけど……まあこれも、魔法講義の内だと考えてあげるよ。
ご覧頂きありがとうございます。よろしければブックマークや広告下の☆☆☆☆☆で評価して頂けると嬉しいです。




