61 宝物
「ナギサの瞳と同じ色の宝石の……ネックレス」
「うん。その顔だと知ってるみたいだね。この世界では婚約や結婚の時、指輪ではなくネックレスを贈る」
「……私にはずっと昔から好きな人がいたの。その人は私の幼馴染で恋人で、婚約者だった。両想いだったよ。だけどその人は早くに亡くなってしまって、一緒になることは叶わなかった」
何でもない日なのに、なぜこんな話をしているのかとは思う。だけど俺は少しでも早く、アリスと約束したかったんだよね。
「『───好きだよ、有栖。最初はただの幼馴染としての好意だったけど、いつの間にか恋愛感情に変わってた。俺と……付き合ってください』」
「ふふっ! 嬉しいな。ずっと大好きで仕方なかった人は私に告白してくれたの。これで二度目。こんなに嬉しいことある?」
「俺は愛する人に告白されたことないから分からないなー。受け入れてもらえたし、普通に好きとは言ってくれるんだけど」
「好きじゃないよ、大好きって言ったの。ナギサ、告白の言葉を完璧に覚えていたんだね?」
「まあね。……それで、返事は?」
「うん。ありがとう、ナギサ。わたしも大好きだよ!」
これは当たり前だけど俺とアリスしか知らないやり取り。俺とアリスは付き合うと同時に婚約したから、これは結婚の約束の言葉でもある。答えは分かっていたけど、断られる可能性もゼロではなかったから、了承の言葉をもらえて安心したよ……
宝くじで一等が当たった、もう叶わないと諦めていた夢が叶った。他にも色々あるけど、人はこれを奇跡と呼ぶことがある。でも奇跡というのは人の手では起こせないことを言うらしい。宝くじの当選や長年の夢が叶ったのは、人の手によって起こった出来事だから奇跡ではない。
でも俺とアリスが同じ世界に、そして同じ時代に転生したこと。転生というものが存在している時点で人の力を超えている。ましてやこうして再会できるなんて、奇跡以外の何物でもない。
こんな奇跡はもう二度と起こらないと言って良いだろうね。だから俺はできる限りアリスとの時間を大切にしたいんだよ。それでこんなタイミングで告白とプロポーズをした。
「ナギサ、これ付けてくれる?」
「いーよ」
「ナギサからもらった宝物がこれで二つ目になったよ。本当にありがとう、ナギサ」
「これからもっと宝物を増やしてもらう予定だから、お礼を聞くにはまだ早いかもしれないねー」
アリスの言う宝物というのはネックレスと指輪だろうね。この世界に俺がプレゼントした物はこの二つしかないから。だけどアリスを愛してやまないこの俺が、たった二つのプレゼントで終わらせるはずがないし?
この世界でもアリスが宝物だと思えるもので溢れさせてみせるよ。そのためにはアリスに愛想を尽かされないよう、今以上に愛を伝えていかないとね。
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