60 氷の城
「それで、ナギサのお気に入りの場所っていうのは海上のこと?」
「ちょっと違うかなー。その前にアリス、君もここに立ってみなよ。俺の祝福があるから大丈夫」
「わか……った」
そっと降ろしてあげると、俺に掴まったまま恐る恐る海面に足をついた。普通はこの時点で沈むから、本当に立っていられるのだと分かると満面の笑みを浮かべた。
急に嬉しそうな笑顔を向けられ、心臓の音が大きく響いた。一拍遅れて顔に熱が集まるのを感じる。
ねぇアリス、その顔は反則じゃない? そんな顔するとは思わなかったんだけど……!
「ナギサ?」
「アリスは浮いていたいかもしれないけど俺は沈みたい」
「何言ってるの?」
「なんでもない」
情けないし恥ずかしいからこんな顔見せられない。そう思ってアリスに背を向けたのに、わざわざ俺の顔を覗き込んできた。アリスって俺をからかうの好きだよね。今のはただ純粋に疑問に思っての行動なんだろうけどさぁ……
「お気に入りの場所っていうのはこれだよ」
「ん?」
手を置き、扉をノックするように海面を二回叩くと、一瞬で大きな氷の城が表れた。アリスの手を引いて中に入り、そのままバルコニーへ向かう。
「氷のお城。普段は宮のように隠しているんだけどね」
「色々とすごすぎて、何から驚くべきか分からないんだけど……」
「このお城は大したものではないよ。ここが一番景色が良くて、特に朝日と夕日は本当に綺麗に見えるんだよ。だから今日は早起きって言ったの。ほら、そろそろじゃない?」
まだ朝日が昇る前の時間。ここのバルコニーからの景色は信じられないくらい綺麗に見えるから、いつかアリスに見せてあげたいと思っていたんだよね。
そろそろ朝日が昇る。今日は天気が良さそうだから特に綺麗に見えるかもしれない。俺が氷の城にしたのは太陽の光が反射してあらゆる景色が光り輝いて見えるから。どうせなら最大限に美しさを引き出したい。アリスは綺麗な景色が好きだから絶対に喜ぶと思う。
「───わああ……!」
「ふふ」
「ナギサ! すごい! 綺麗!」
「でしょ?」
本気で喜んでくれているのが分かる。想像以上の反応だねー。
氷でできた城に朝日が反射し、光の当たる角度によってはピンクや紫、青色にも輝いて見える。俺はここから見る景色が本当に大好きなんだよね。春夏秋冬、時間帯によっても見えるものが違って飽きない。景色を見るためだけに城を造ったくらいだからね。
今日ここにアリスを連れてきたのはただ一緒に見たかったから……ではない。それも嘘じゃないけど、他にも理由はある。
「アリス、遅くなったけどお誕生日おめでとう。今年も君にとって素敵な一年になりますように」
「……え?」
「今世のアリスの誕生日も七月二十八日ってエリオットくんから聞いたよ。もっと早くアリスを見つけられていたら当日にお祝いできたんだけど……」
サプライズ、と言ってプレゼントを渡す。今世のアリスの誕生日は最近知ったばかりでお祝いするタイミングもなかった。だから今日のように何でもない日になってしまったけど、この景色も一緒にプレゼントってことで、遅れた分は許してほしい。
「あ……ありがとう。開けてみても良い?」
「ん」
「……これ、もしかして」
手渡した箱を開けたアリスは中身を見て目を見開き、中に入っていたものと俺の顔を何度も見比べる。嫌がっている様子はなく、むしろ喜びが前面に出ているのを見て口角が上がるのが分かった。気に入ってもらえなかったらどうしようかと思ったけど良かった。プレゼントを渡す時はいつも反応が楽しみであると同時に少しだけ怖い。だから喜んでもらえたようで安心したよ。
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