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【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?  作者: 山咲莉亜
第2章 亜麻色の光

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57 『愛』とは

 ◇


「───それでね、アリス。明日の朝は一緒に散歩でも行かない? 俺のお気に入りの場所があるんだよ」

「え、行きたい!」

「じゃあ今日はもう寝よ。明日は早起きになるからねー」

「私は起きられると思う。どちらかと言うと起きれないのはナギサの方でしょ」

「そんなことは……あるね。うん、寝よ」


 そんなことない、とは言えないかな。朝が弱いわけではないんだけど、やっぱり寝るのが好きだからできるだけ長く寝ようとしてしまう。


「おやすみ、ナギサ」

「おやすみ。……あのさ、眠くなったら全然寝ちゃって良いし、俺の言うことに返事をしてもしなくても良い。だから寝るまでの間、少し聞いて」

「……うん?」


 大人が五人はゆったり横になれそうな広さのベッドに二人で横になる。アリスがいる方とは反対側に体を向け、静かに目を閉じるともう何十年も何百年も前から考え続けていたことをアリスに話したくなった。

 これは俺がこの世界に精霊王ナギサとして生まれた頃からずっと思っていること。そしてアリスと再会し、以前にも増して考えるようになったこと。


「『愛』ってなんだと思う?」

「それは言葉の意味……ってことじゃないよね」

「うん」

「愛かぁ……ちゃんと考えると難しいよね。答えはないと思うけど、だからこそ私は分からないかな」


 至って真面目に、そして静かな声で話すアリス。辞書で『愛』を調べると、『大事なものとして慕う心』『特定の人を愛しいと思う心』などが出てくる。でもそれって、調べた人が本当に知りたいことではないと思うんだよねー。そんなことは誰でも知っているでしょ。哲学の話になってきているけど……


「俺は『愛』の一つは信頼だと思う。あくまでも俺個人の意見であって、それが正解かどうかなんて分かるはずがないんだけどね。……信頼できる相手じゃないと好きにはなれない。あるいは愛があるから信頼できる、とか。まあ色々あるけど相手を信頼していて愛しているからこそ、相手を想ってその気持ちを隠すこともあるのかもしれないね」


 大切に思っているからこそ距離を取る、ってやつかな。意外とこういう人は多いと思う。そうだね……今の関係を変えたくないから、恋愛感情を抱いている人がいてもその素振りを見せたりはしない、なんて話は良く聞くかもしれない。


「私、ナギサは愛があるからこそ愛を隠すっていうところもあると思う。普段、愛を見せる相手がたくさんいるから、周りからするとそんな風には見えないかもしれないけど」

「自分も相手も、桁違いの権力や実力があって。愛しているけどいつか敵対するかもしれない。もしそうなった時にお互いの心を守るために愛を見せない、悟らせない。愛があることを気付かれるくらいなら徹底して嫌う。そう見せる。……その愛情がどんな種類かは様々だけど、俺だったらその愛情を何が何でも隠し通したい相手に勘付かれたとしたら、その時は相手を憎むかな。探らないでほしいし、自分に干渉しないでほしい。いつか自分が壊すことになるかもしれない存在と愛し合うのは本当に怖い」


 そんな風に思うだろうね。愛情を持っていることは自分だけが知っていれば良い。それが理由で相手にどんなに嫌われることになろうと、憎まれることになろうと、俺だったら絶対に愛を見せたくない。


「……力を持つ人ほど怖がりだったりするって、本当だね。ナギサは自分のことを冷酷とか冷徹って言うことがあるけど、本当の本当はすごく優しいよね。羨ましいな、ナギサにそんなに愛される人が」

「俺の話とは言ってないよー。俺の考え方ってだけで」

「それは同じようなものだよ」

「……でも、愛があるから信じて待てる、ということもあるのかな? いつか敵対する必要がなくなるその時まで。でも相手への愛情を隠したい時に相手から愛情を向けられると信じられないんだよね。というより、信じたくないかな」

「…………」

「ごめんね、急にこんな話をして。俺が思っていたことを何も考えずに言っただけだから、もし話してる内容が矛盾していたり、何を言っているのか分からないところがあったとしてもそこは見逃して?」

「幼馴染であり恋人でもある私が理解できないわけない……ことはないけど、大体分かるから大丈夫! なんか難しいことを言ってるなーって思いながら聞いていることはあるけれど! ちなみにナギサが今話していた相手は誰?」


 だから俺のことだとは一言も言ってないって。突っ込みどころが多いし、その興味津々な顔やめてよ……


「どこで聞かれているか分からないから言わない。もちろん、恋愛の意味で愛しているのはアリスだけだよ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど……んー、残念!」

「……そうじゃないね」


 元気いっぱいで残念って言われてもねぇ……俺がその相手に愛を見せることは一生ないと思う。あるとしたらそれは、その相手が俺を嫌った時になるかな。


「でも、さっきも言ったけどそこまでナギサに愛されているなんてその人も幸せだね。嫉妬しちゃう」

「俺の一番はいつだってアリスだよ」

「それは言われなくても分かってる。ナギサは言葉より行動で示してくれるからね。だけど私は欲張りだから、どの種類の愛も欲しいの」

「家族愛、友愛、恋愛。この辺りならいくらでも。まだ足りない?」

「うん、十分だけど足りない。だからもっと私を愛してくれる?」


 俺の愛する人はすごく欲張りらしい。でも俺の相手はこれくらいじゃないといろんな意味で務まらないと思うんだよね。だから俺は好きだよ、欲望に忠実な子。我慢するよりよっぽど良い。それでも俺の『一番』を求めないのはアリスらしいね。


「君が思う何倍も、俺はアリスを愛しているよ。全て曝け出したらきっと君は溺れてしまうだろうね」

「それはすごいね」


 そう、我ながらすごいと思う。ここまで愛が重く深いのは。俺の愛は綺麗なだけではないけれど、それでも愛する人を想う気持ちは本物。これだけは忘れないでほしいかなー。

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