55 好奇心の赴くままに
「ナギサ……」
「アリス、俺は本当に大丈夫だよ。昔のことは別に怖かったわけじゃない。暗くて狭い場所は無理だけど、他のことはもう大丈夫。だから心配しなくて良いよ」
「うそ」
「じゃないよ。毒のことだって今なら治癒魔法が使える。俺はアリスが思うほど傷付いてはいないんだよー? これでもメンタル強いからね。もしこれ以上は耐えられないって思うことがあったならアリスに相談するよ。信じられない?」
「絶対だよ?」
「うん」
アリスが俺の心を心配してることくらい知ってる。俺達は付き合いが長いからね。今の俺は無力じゃない。もう子供ではない。大抵の相手は返り討ちにできるだけの力を持っている。
メンタルが強いっていうのはちょっと自分で分かることじゃないんだけど、まあ嘘も方便って言葉があるじゃん。だから適当に言っただけ。わざわざこれ以上心配させるようなことを言う必要はない。相談のことだって、俺が平気と言えば済む話だしねー。
「じゃあ部屋に戻る?」
「その前に、さっきの部屋どうなっているのか見て良い? 他にも何か仕掛けとかあったら面白いでしょ!」
「……今まで元気がなかったのは何だったのかな。好奇心旺盛だね」
「悪いことではないでしょ」
元気のなさは言わなくて良いんだよ。ただ暗くて狭いところが駄目なだけなんだから。
「どうやって調べるの?」
「この部屋を一回壊す」
「壊す!? な、直せるの?」
「直せるよー」
「ここに勇者がいる……」
勇者は好奇心で建物を破壊したりしないと思うんだけどねぇ? 行動力って意味かも知れないけど、どちらにしてもおかしい行動だという自覚はある。でも面白そうじゃない? 隠し通路や隠し部屋が集まっている空間だったりして。
「いくよ?」
パシッと音を立てて扇を閉じると、同時に目の前の部屋だけが粉々になった。
「えー……」
「何もない、ね」
「さっきの隠し部屋はどこ行ったの? 魔法でも使って隠されてる? 面白いね……!」
「飽きないね、ナギサも。今のナギサはすっごく無邪気な子供みたいで楽しそう。いつもの腹黒さはどこに消えたのやら」
聞かせる気があるのかないのか良く分からない独り言を漏らすアリスも、俺と同じように楽しそうにしてる。幼馴染は性格まで似るものなのか、それとも性格が似ていたから親しくなったのか……俺が言うのも何だけど、俺とアリスが本気で好奇心の赴くままに行動したら苦労人気質のルーが絶叫しそうじゃない?
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