40 魔法陣
地・水・火・風、それぞれを象徴する四つの魔法陣。似ているようで文字や模様の異なる魔法陣を描くのはすごく大変で難しい。それなのに細かいところまで完璧で、最後に描き始めたのは俺の予想通り精霊王を表す魔法陣だった。
これが一番難しいのに手間取っている様子は一切ない。舞うように炎で五つの魔法陣を描き終わったサラマンダーの顔は達成感で溢れてる。
これ、まさかとは思ったけどやっぱりアレだね。風の宮、浄化の間にある五つの魔法陣。これは炎を纏っている魔法陣だけど、本物とそう変わらない。
これには見ていた彼らも絶句している。今までは小さいながらも感嘆の溜め息が聞こえたりしてたんだけど、これは予想外すぎたんだろうねぇ。俺だってびっくりしてる。幻想的とは違うんだけど、なんだろ……なにかが召喚されそうな見た目してる。感想下手だけど一応褒めてるよ。
「ふぅ……ナギサ様、どうだ?」
「ど、どうですか?」
「すごいね。綺麗だよ。俺でもここまで綺麗に描けるかどうか……」
残念なことに、俺は芸術に関してはそこまで才能ないからね。平々凡々なんだよ。だから余計にサラマンダーがこれを描き上げたことに驚いた。精霊なら魔法陣くらい簡単に描けるけど、それがどの程度のものかは実力による。俺が生んだ精霊でも画力はあるんだね。まあ当然か。俺が一番下手な料理だってできるし。
「最後は俺だけど……どうしよっかな。君たちがすごすぎるからさ、俺の出る幕ないよね。この後で俺がやる意味ある?」
舞い散る氷の薔薇に色とりどりの炎の花、燃える魔法陣。文字にすると派手なだけなんだけど、実際には全体的に『幻想的』という言葉の方が合っていた。俺しか使えない魔法なら無系統魔法になるけど……
「ナギサ様、謙遜も行き過ぎると嫌味になりますよ」
「はいはい」
謙遜じゃなくて本心だからね? 俺が駄目なんじゃなくて、皆がすごすぎるんだよ。
「期待外れだったらごめんね。んー……じゃあ、俺がこれまで生きてきて一番尊いなって思った景色」
本当に大切なものは失ってから気付くって、その通りだと俺は思うんだよねぇ。日頃から大切なものは何か考えていれば良いんだろうけど、それを実行できる人ってかなり少数なんだよ。口では何とでも言えるけど、絶対誰でも一度は経験することだと思うな。
俺が思い返して一番幸せだったなと思ったのは、やっぱり前世の家族との何気ない一日なんだよ。ただ普通に話をして、笑い合って、たまに喧嘩して。それが一番楽しかったんじゃないかなと今では思う。……なーんて、良いこと言ってる風と言うか、悟りを開いた老人みたくなってるけどただ恋しくなっただけ。
前世でも俺の生まれた環境が原因で血生臭いことはあったけどさ、それでも今世ほどではなかったわけ。今よりは穏やかな部分もあった。だから俺は自分が癒されたいのもあって、この魔法を使った。
幻惑───とは少し違うけど、俺が想像したものが景色のように見える。実体験とも違うんだけど、なんていえば良いのかな……まあ幻惑みたいなものか。
ご覧頂きありがとうございます。よろしければブックマークや広告下の☆☆☆☆☆で評価して頂けると嬉しいです。




