34 火の大精霊サラマンダー
「んー……良いんじゃないの? 俺に異存はないよ。メルとルナは大人の姿になれるよね」
メルとルナ、火の下位精霊と地の下位精霊は夫婦だ。同じ種族と言えど、属性が違う精霊が夫婦になることは珍しい。それでも、シルフのように他の種族と結婚したり、過去にも数えるほどしかない水と火の精霊が結婚するよりは珍しくないが。
俺、サラマンダーはありがたいことにナギサ様に大精霊の地位をもらっている。とは言っても、出世などではなく生まれた瞬間から決まっていたのだが。
火の大精霊なら火属性の精霊を生むことができる。シルフが言ったメルというのは俺が生み出した精霊だ。下位精霊でありながら中位精霊をも圧倒できる程の力を持っている。俺の腹心として働いてもらっており、忠実で信頼のおける精霊だ。
「練習開始はいつからになりますか?」
「そうだねぇ……演劇の練習はもう少し先になるけど、魔法は早めに練習を始めた方が良いだろうから……明日相談してみるよ。どんな風に教えるかだけ決めておいてくれる?」
「はい」
魔法は祝福を受けていたり契約している精霊がいたとしても、ある程度は練習しなければ使うことができない。理由は体内にある魔力を感じ取った上で操作し、さらに魔法を使用した後の魔力が奪われる感覚に慣れ、自身の限界を把握しておくなど、事前に準備が必要だからだ。魔法の種類はかなりあるので、発動自体が難しい魔法だって少なくない。
それは精霊でも同じだ。他種族と違って生まれた時からそれらの感覚は認識できているが、慣れるまでは扱いが難しい。練習と共に慣れることができても、みんな一つは苦手な魔法があるものだ。それでもナギサ様はすべての魔法を難なく操り、自由自在に扱うことができる。
いくら大精霊と言えどナギサ様には絶対に敵わない。努力次第で強さも変わるが、ナギサ様は精霊王ということを差し引いても別格。血が滲む程の努力と同時に、魔法に関しては生まれながらの才を持っていると思う。
人族でもエルフ族でも、魔族や精霊族だって、努力を苦と思う人の方が圧倒的に多いのは同じだ。楽しむなんて以ての外。
前世のナギサ様も努力を苦と思わない方だったようだが、転生後は異常なレベル。この一年、傍から見ればナギサ様は好きなことだけをして過ごしていたように見えるかもしれない。実際には暇があれば魔法の練習をしていた。ナギサ様が言うには『魔法というものが前に生きていた世界には存在していなかったから、規模関係なく扱うのが楽しい』のだと。楽しいのは良かったが、一体どれだけ練習すればあんなになるのか俺には全く想像がつかない。
まあそんなわけで、俺達大精霊より強いナギサ様が教える方が良いのではないかと思ったが、それは面倒らしい。精霊王たるナギサ様が面倒と言うのなら仕方ない!
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