32 借り一つ
「……それで、全然関係ない話になってたけど、結局演劇の王子役はどうするの?」
「それはもちろん、ナギサ様にやっていただくのが一番助かりますけど」
「借り一つでランスロットくん、俺の代わりにやって?」
「……やって? じゃないだろう。男相手に可愛く言うな」
やだな、俺がそんなことするわけないじゃん。男が男に可愛く言ってなんの意味があるの?
「ナギサの王子様役、すっごく見たい!」
「アリスのお願いでも聞けないかなー。俺は今回裏方に徹するの」
アリスは『えー』と残念そうな、そうでもなさそうな声を出す。するとランスロットくんは悪いことを考えていそうな笑顔でこう言った。
「ナギサに貸し一つか。悪くないな」
ものすごく嫌な予感しかしないのは俺の気のせいかな? 気のせいじゃないよね、きっと。ランスロットくんにこの提案をしたのは失敗だった気がしないでもない……けどまあ良いか。
「俺は良いぞ。引き受けよう。ただし、セインや他のクラスメイトからの反対がなければだが」
「僕は構いませんよ。幸いランスロットの役は決まっていませんでしたし、クラスメイトの方はどうとでもなりますから」
「じゃ、よろしくー。俺は裏方……みんなに魔法を教える役ってことでどう?」
これなら元々やることが決まっていたし、これ以上やることを増やさなくて済むと思う。
「楽したいという気持ちがひしひしと伝わってきますが、魔法をクラスメイト全員に教えるというのは間違いなく大変だと思いますので、それで大丈夫ですよ」
「ありがとー」
魔法を教えるのは実はそんなに大変なことでもないと俺は思ってる。だって精霊達に協力をお願いすれば良いだけだしー? 精霊は魔法が使えるとはいえ、言い方は悪いけど強さに関してはピンからキリまでいる。それでも他の種族と比べたら圧倒的に強いんだけどね。
その中でも魔法が得意な子達を呼べば学園祭に間に合うでしょ。彼らに頼めば俺はほとんど見ているだけで良いかなーって。
だけどそんな余計なことは言わないよ。だってセインくんは今考えていたことを言った瞬間、容赦なく別の役割を突き付けてくるだろうからね。最近みんな俺に対して遠慮がないんだよ。別に嫌なわけではないけれど。
でも『前より親しみやすい感じがする』とか『ナギサも生き物だったんだな』とか、それは本人に言わなくて良い言葉だと思う。前者はともかく、二つ目はなんなの? 逆に俺が生き物ではない、他のなにかに見えてたのかなって、その時ばかりは自分でも笑顔が黒くなった自覚があったよ。
ご覧頂きありがとうございます。よろしければブックマークや広告下の☆☆☆☆☆で評価して頂けると嬉しいです。




