第17王女
ほかのサイトには投稿済みなのになろうにだけ投下してなかったので投稿です
今現在、エリーにぶん投げられてグーングーンと空を飛んでおります。
よし、まずは武器の準備だ! というわけでワンドサイズのクリティカルロッドをベルトから外し、魔力をぐんぐんと注いでいく。
そうするとムククッとワンドが大きくなり打撃に最適な大きさになる。この持ち運びやすさも愛用している一端だよなー。ほんとダンジョンでいいものがドロップしたもんだ。
しかしまずいな。このままだとあの男が魔法を打つ方が早い。しかもその視線の先には倒れて動けない親子の姿が。
ちっ、胸クソが悪くなるな。おっ、親子を叩かれてた女の子がかばったぞ。
うーん、仮に魔法を撃たれても俺が回復魔法を使えるから問題はないって言えばないんだが……女の子のかわいそうな姿は見たくないよね☆
というわけで挑発のスキルはないけどあの男の意識をこっちに向けさせましょう。大きく息を吸い込んで、さあ、いくぞっ!
―――
私は絶望しておりました。
あ、わたくしシルシル・ハーミトン・……っと家名はいいですわね。知り合いからはシルバーなんて呼ばれてます。
うちはまぁいわゆる古い家で、いろいろなしきたりがあります。その中の一つが”男との間に子をなせ”というもの。
とはいえ長女なら継承権もありいい男も選び放題なのでしょうが17番目ともなると……はっきり言って私にあてがわれた男は最悪と言っていいヤツでしたわ。
目上の者には媚を売り、格下のものには威張り散らす。
平民の男はそうでもないらしいのですが、貴族の男は自分がいかなくても”真の男”になれるアイテムをユグドラシルダンジョンから持ち出すことが認められているため女に至上の快楽を与えては気に入らなければ捨てる、というクズも生まれてきやすいのです。
そんな女を玩具のようにするのを”女遊び”と称してまるで英雄譚のように聞かされる私。
精神がゴリゴリと削れていくようでしたわ。そして極めつけは「大人になったらいの一番に至上の快楽を叩き込んでやるから楽しみにしてろよ」とニヤニヤとおぞましい笑みで気持ちの悪いものを大きくしながら私に触らせるのです。
私はもうこんなのは嫌で嫌で育ての親に何度もいやだいやだといったのですが……結局今日、大人と認められる天職の儀の日まで何も変わりはありませんでした。
天職の儀で授かったのは”魔闘士”のジョブ。魔闘士のジョブは魔力を身にまとい戦う戦闘系のジョブです。
そこで私はひらめきました、(家出して冒険者になれたらな……)なんて。ですが考えれば考えるほどそれが天啓のように思えて……わたしは初めての家出を決行したのです!
ですがやはり大人になりたての子どもの浅知恵だったのでしょうか……わたしは見張られていたのです。
王宮を抜け出せたまでは良かったのですがギルドにいく途中でヤツに見つかってしまいました。
ヤツのジョブは炎術師という魔法使い系のジョブ。レベルさえ上げることができれば力では私が勝るでしょうが天職を得たての私では難しいでしょう。
そしてさんざん自慢された愛用の杖で私を打ち据えるのも飽きたのか、それとも私がまだどうにか逃げられないかと考えているのがわかったのか……
ヤツはいやらしい笑みを浮かべながら火の玉を周りの人間に向けて「お姫様はこちらのほうがいい顔を見せてくれそうだ」といって……正直この後のことはよく覚えていません。
ヤツに殴りかかったような気もするし、何もできずただ涙を流していたのかもしれません。
ただヤツの視線の先で子供が転び、親が助けようと駆け寄ったのをヤツが私に意味ありげな視線をよこしたときには体が勝手に動いていました。
「屑だ屑だとは思っていましたがここまで屑だとは思いませんでした!」
「はーっはぁ! 何言ってやがる。言っとくがお前が盾になっても止めねーからな! 女ってーのは穴さえついてりゃ十分なんだよ! 心配するな! たとえ肉塊になっても孕ませてだけはやるからよ!」
ああ……どうしてこんな事になってしまったんでしょう。あのまま王宮で大人しくしていればよかったのでしょうか?
でも、嫌だったんです! 今まで散々見せられた素直になったという快楽を与えられてヤツに追従するだけの人形に成り下がるのは!
だから私は力を込めて睨みつけます。対するヤツはニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべたまま。
もうどうしようもない私は神様にすがるしかありませんでした。ああ、女神様。どうか私を助けてくれとは言いません。せめてこの眼の前のクズに裁きの鉄槌をお与え下さい!
するとどうしたことでしょう。なにか叫び声のようなものが聞こえてきました。しかもだんだんこっちに近づいてきて……
「ウラァァァーーーァァァイ!!!」
お、女の人が空を飛んできてるーー!! 私が願ったから神様が助けをよこしてくれたんでしょうか?
って、ヤツが魔法の向きを変えました!
「あ、あぶなっ」
―――ズガーーーン!!!
あ、あああ、なんということでしょう。私を助けに来てくれたであろう女の人はヤツの魔法に焼かれて私の目の前に投げ出されました!
……これは私の罪でしょうか? 普段信じてもいない女神様に都合の良いときだけ神頼みをする。なんと愚かなんでしょう。
はっ、そうでした。冒険者になるにあたって持ち出したものの中に確かポーションが!
しかしポーションを探り当て女の人に駆け寄ろうとしたところで私はあっけにとられてしまいます。
魔法に焼かれ倒れているはずの女の人がヤツから私達をかばうように立っていたから。
その姿は……魔法に焼かれてただれてしまった顔のハズなのに……とても美しく神聖なものに思えて……
私はこの日、運命と出会ったのです……