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メイドの宝物

 私は未来の大切なものを思い出して、不覚にも泣きそうになった。

 初めてお嬢様に頂いた私の大切な宝物。

 ギンという名前。

 それを私は再び頂けた。

 お嬢様は知らないだろう。

 私がどれだけ嬉しかったか。

 あの時もそうだし、それはこの今この瞬間もそう。

 喜びに震え、私は歓喜のままに声を上げそうになる。

 だけど、そのようなはしたないことはお嬢様の従者としては相応しくはない。

 だから私は喜びを必死に押し殺し、お嬢様に感謝の意を示す。


(頑張ろう。このお方の為に私はもっと頑張ろう)


 その決意のままに私はさらに励む。

 励み続け、半年後に私は旦那様から嬉しい提案を頂けた。


「随分と頑張っているようだね、ギン。君の働きは私の耳にも届いているよ」


 グラン・ディルバック公爵。

 お嬢様のお父上にして、私の直接の雇用主。

 常に能面のような笑みを浮かべているどこか胡散臭い人物であり、未来の記憶を持ってる私にとっては忌むべき存在でもある。


(このお方のせいではないのは分かっている。私にはこのお方にも恩義はある。それは分かっているのですが)


 最終的にお嬢様を見限る決断を下した人物の一人でもある。

 その事実がある以上は、私にとってこの御方は嫌悪するに値する。

 ただ、それを表に出すことはしない。

 私は好意を全面に押し出した無垢な笑顔を作り、旦那様に示す。


「勿体ないお言葉です、旦那様」


 私は深々と頭を下げる。


「そんなに気を張る必要はないよ、ギン。君はまだ子供だ。子供は子供らしく、もっと我儘に振舞ってもいいんだよ」


「いいえ、そういうわけにはいきません。私は今は従者の身。それに最下層(スラム)出身の使用人の私がそのような態度では、旦那様の威に傷がつきかねません」


 以前はその言葉をそのまま鵜呑みにして、私は旦那様の有難い言葉の通りに少し気安く振舞った。

 振舞ってしまった。

 その結果が一部の者たちから反感を買った。

 もう同じ轍は踏まない。

 旦那様は珍しく少し困った顔をすると「そうか」と溜息をつく。


「君は随分と大人びているね。あの子が拾ってきた時はもっと絶望に身を寄せてるように見えたが、なにかあったのかな?」


「いえ、ただあのままではいけないと思っただけです。私はお嬢様の為に、お嬢様のお傍でそのお役に立つためだけに……、その為にもっと強くならなくてはならないと決意しただけです」


 私は適当な建前を並べる。

 未来の記憶があるなどとそんな妄言に等しいことは誰にも言えない。

 言ったところで誰も信じることはないだろう。


「そうか。そこまであの子のことを慕っているのならば一つ提案がある」


「……提案?」


「ああ、そうだ。君にとっては悪い話ではないだろうね」

 

 旦那様は相も変わらない笑顔のまま私の肩に手を置く。

 

「どうだい。あの子の専属になるつもりはないかな?」


「え」


 私は耳を疑った。

 まだこの家にきて一年も経たず、使用人になってからはまだ半年程度だ。

 そんな未熟な私にまさかの提案。

 

「お嬢様の専属に……、まだ半年なのに」


「ああ、そうだ。君はまだ半年だけど、その働きはとても素晴らしいと聞き及んでいる。だからこその提案だ」


「本当によろしいのですか? 私で」

 

「ああ、勿論だ。それに年齢が近い方があの子も落ち着くことだろう。君とあの子が姉妹のように仲良いことも知っている。なので君にあの子の身の回りのことを任せたい」


 私は喜びにうち震える。

 まさかもう……。

 未来の記憶では私がお嬢様の専属になったのは12の春だった。

 それなのにまさか半年で、お嬢様の専属になれるとは思えなかった。

 ただ、一つ気がかりなことがある。


「本当によろしいのですか? セナさんの方が適任では? 」


 厳しくも時に優しい私の教育係。

 未来の記憶では私の前任のお嬢様専属メイドはセナさんだった。

 だが、私が10歳の時にセナさんが結婚し、使用人を辞めたことをキッカケに私はお嬢様の専属メイドになった。

 その記憶があるからこそ次のお嬢様の専属メイドは

セナさんだとばかりに思っていた。


「まあ私も最初はそうしようと考えたんだがね。セナ自身が君を推したんだ」


「セナさんが私を」


「ああ。それに娘も君の事は気がかりなようだし、それならばいっそ君をあの子の近くに置いた方がいいと思ってね。どうだい? あの子の専属の話、受けてくれないかな」


「……是非。そのお話、有難く頂戴いたします」


 そうして私はお嬢様の専属メイドになった。


 



 

 

 

 

 


 

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