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メイドは再びメイドになる

「なにこれ……、これは一体どういうこと」


 明朝。

 部屋に差し込む陽光と小鳥の囀る声で目を覚ました私は、目の前にある現実に混乱していた。


「私、確かに死んだはず。あれは夢?」


 いや、違う。

 あれは確かに現実だ。

 現実の痛み、現実の苦しさ。

 吐きそうになるほどに最悪な感触だった。

 私は切り落とされたはずの首に触れると、しっかりと胴体に固定されていることに僅かな安堵を覚える。


「生きてる……。ならあれは一体……、いや、それよりお嬢様は!」


 私はベッドから飛び降りて、急いでお嬢様の元に向かおうと足を動かす。と、そこで視界の端に映ったそれを見て、私は思わず足を止めた。


「えっ……」


 それは私に与えられた部屋に備え付けられた姿見。

 そこに映る私の姿。

 それを見た瞬間に私は驚愕のあまりに固まってしまう。


「なにこれ。嘘でしょ」


 姿見に映る私の姿は、幼少期の時のそれだった。

 これは昔お嬢様に「あなたは紙質が綺麗だからきっと長い方が似合うと思うわ」と言われて、嬉しくなって伸ばし始めたばかりの時のセミロングの長さの銀髪に。

 腕や足に刻み込まれた真新しい傷の数々。

 背丈も縮み、130センチにも満たない。

 そんな子供の姿に戻っていた。


「これは一体……」


 私は困惑しながらもそれよりお嬢様の安否の方が気になる、とてとてと部屋を飛び出した。

 足取りが重い。

 というよりは体が小さくなってる影響か、歩幅も小さく、いつもより廊下が長く感じる。

 思いっきり全力疾走する私の姿を見て行き交う他の使用人たちから「ちょっと危ない」

 と注意の声があがるが、私は気にせずに走り続けて、ようやくお嬢様の部屋の前に辿りつき、そのまま部屋に転がるように入る。

 普段の私ならば絶対あり得ないことだが、今は普段の私の良識など完全にないものになっていた。


「あら? 起きたのね。よかった」


 部屋に突撃した私は、目の前にいる彼女のその姿を見て思わず涙が零れてしまう。

 ああ、よかった。

 お嬢様が。

 お嬢様が生きてる……。


「えっ、ちょっとどうしたの!? なんで急に泣いて……」


 お嬢様は心配そうに駆け寄ってくると私は思わず抱きしめる。

 小さい体だ。

 私と同様にお嬢様もまた子供の姿のままだ。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。

 この現象がなんであれお嬢様が生きている。

 ただそれだけで他のことなどもうどうでもいい。


「お嬢様……、よかったです。お嬢様……」


「えっ、お、お嬢さま? 本当にどうしたのよ。まさか過去がフラッシュバックでもしたのかしら」


 ああ、お嬢様の体温だ。

 温かい。

 そうだ。

 懐かしい。


「……まったくもう。仕方ないわね」


 ぎゅっとお嬢様が私を抱きしめ返してくれた。

 お優しい方だ。


「よしよし、もう怖くないわよ。もう誰もあなたを傷つけるひとはいないわ。これからずっとここにいていいのよ」


「……お嬢様」


 この感じ、すごく懐かしい。

 大人になってからはなかったことだけれど、そういえば昔はよくこうしてお嬢様に泣きついていたっけ。

 そのことを思い出し、さらに感情が溢れ出し、そのまま私はお嬢様の腕の中で泣き続けた。

 そうしてひとしきり泣き終えると私は、すっとお嬢様の胸の中から離れた。


「あ、ありがとうございます。お嬢様」


 なんだか急に恥ずかしくなってしまい、私は取り繕ったように姿勢を正す。


「ふふ、もう大丈夫なの?」


 心配そうな顔の彼女に私は応える。


「はい、もう大丈夫です。心配かけて申し訳ございません」


 急に百八十度態度が変わった私に少し怪訝な顔をして、それからお嬢様は小首を傾げる。


「ならいいのだけど。それより一つ気になったことがあるのだけど、そのお嬢様って何?」


「え」


「もしかしてうちの使用人になりたいのかしら。そんなことせずともあなたのことはしっかりと面倒見るつもりなのよ?」


「……成程。そういうことですか」

 

 お嬢様の安否の確認を終えたからかようやく私は思考を巡らせるだけの余裕ができて、そこで一つの推察に行きついた。

 私とお嬢様が子供になったのではなく、恐らくここは過去の世界なのだろう。

 お嬢様の今までの口ぶりから察するに私はまだ使用人ではなく、お嬢様に救われてこの屋敷に迎えられたばかりの頃なのだろうか。

 我ながら馬鹿馬鹿しい推察ではあるものの、今この状態そのものがあまりにも荒唐無稽過ぎて、それに理屈付けをするとなるとそれくらいの大胆な推察にならざるを得ない。

 

 とりあえず私の推察を確かめる為に私はお嬢様に今日の日付を年号から確かめる。と、やはりその通りだった。

 どうしてこうなったのかは分からない。

 何が理由なのかもわからない。

 もしかしたらこれは夢なのかもしれない。

 あるいはあの処刑が夢なのかもしれない。

 だが、もしも今のこれが何らかの奇跡により与えられたものだとするのならば、私のすることは一つ。

 決まっている。


「おじょ……、エルシア・ディルバック様。私をあなたのメイドにしてください!」


 もう二度とお嬢様をあんな目に合わせない。


「必ずあなたのお役に立ちますので、私を是非」


 私が必ずお嬢様を助けて見せる。

 

「お願いします」



 

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