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【完結】恋愛案内人  作者: 安部マリヤ
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恋愛案内人 第五章 「初恋は複雑な味」 前編

 私の名前は桜田美央さくらだみお、現在の年齢は25歳。本屋で働いている。

 私の恋愛の話はつまらないかもしれないが、少し変わった結末になったのでメモしておく。

 恋愛をする暇もなくずっと24年間生きてきた。そんな中、友人からの紹介というか天の声というか、私にまさかの恋愛の春がやってきた。相手は、消防署で働いている消防士さんだ。目がクリっと二重で、焼けた素肌、髪は短髪で、筋肉質、いわゆるマッチョだ。かっこいいなあ、一目でそう思った。お名前は、田中陽翔たなかはるとと、名前までカッコイイ。


 私なんかには勿体ない、私なんかが好かれない。どうしてこんないい人が独身なのか。何より、なぜ私のことを好きになってくれるなんて想ったのだろう、友人よ! 私は初めて会った喫茶店でそう思った。


 でも不思議と好印象を持たれたようで、というか、話しやすい雰囲気を醸し出してくれる人で、多分きっと誰にでもそうなんだろうなあ、と思った。本の話やラーメンの話……マッチョさんだからプロテインばっかり飲んでいるんだろう(偏見かな)と思っていたら意外にもラーメンが大好きらしく、私と趣味が合った。本の話、まあ漫画ばかりだったけれど、それでも私は嬉しかった。あと、彼は家族の話をとてもよくしてくれた。お兄さんが外科医で休みなく働いていること、これまでどれだけ人の命を救ってきたか。彼にとっては自慢の兄だと言っていた。一人暮らしをしている兄だけれど、たまに実家に帰ってきては一緒にゲームするんだと言っていた。自分も人の命を救う仕事だけれど兄には適わないとも言っていたな。


 私は一人っ子で、父を早くに癌で亡くして母と二人暮らしだったから、彼の家族の話はとてもほっこりした。私も、もしその家族の輪に入ることができたら、きっと楽しいのだろうなと思った。けれど、初めて会って初めて会話をしたのに家族の輪に入れたらと思った自分に驚きもした。

 そんな中、2回目のデートで彼から「付き合ってくれる?」と言われた時、心の中で鐘が鳴った。それもウェディングベルのようなもの。幸せの絶頂だったかもしれないなあと後から思うが、本当に嬉しかった。自分の何が良くて「付き合ってくれる?」に繋がったのかわからずおどおどしてしまったのだが「大丈夫?泣きそうになってるけれど?」と言ってくれたその時の彼の顔も、とてもかっこよかった。

「お付き合いなんて初めてですがどうぞよろしくお願いします」

「こちらこそどうぞよろしくお願いします。ってなんか、かしこまっちゃって変だね」と笑い合った。後で、私の良いところどこ?と聞いたら、見た目がとりあえずタイプなのと(これは驚いた!)やっぱりラーメンかなと言っていた。

 私の見た目は、地味だと思う。長い黒髪は染めたこともなく、いつも仕事中はゴムで一つ括りだし、化粧もそんなに派手じゃない(化粧は身だしなみの一つだと思って、するけれどね!)。でも彼はそんな地味子が好きらしく「派手じゃなくていいんだよ、元がいいからさ」と言ってくれた。嬉しかった。

 私は青春を取り戻すかのように彼とあちこちに出掛けた。

 水族館に映画、美術館、3Dアート展、もうとりあえず、ザ・デートというデートはしこたま楽しんだ。意外にも彼が芸術に興味があって、絵をじっくりと眺めるのが好きだということがわかった。人はこうして、触れ合って、好きなものを共有し、そこから愛を深めていくんだと思った。初めて手を繋いだことも、初めて、キスをしたことも、初めて体を重ねたことも、すべてが初めてで、宝石のようにキラキラと輝いていた。

 恋愛をときめきと言ったりもするが、私の表現では心の中で光る、自分だけの宝石。


 ---彼が私を輝かせてくれている。

 ---彼が私の世界の中心になった。


 私は恋愛小説を読んでもいまいち人を好きになることの大切さが理解できなかった。その人から目が離せずに、じっと見てしまう、心が燃えるほど愛して、連絡が少しでも遅くなれば心配し、切なくなり、会いたくて会いたくて震える……それらが一体どういうことなのか、わからなかったのだ。ところが、彼を好きになったことですべてを理解した。


「男性に興味なさそうだね」

「恋愛をしても美央ちゃんは冷静そう」


 いろいろなことを言われたが、どうやら私は男性に興味がない訳でも、恋愛をしても冷静でいられるほど淡泊でもなかったらしい。


 でも、きっとそれは、彼だから。


 彼という人だから、こんな自分に出会えたんだと思う。

 私は何不自由なく幸せだった。あんな日が来るまでは。

 彼は何せ連絡がマメなタイプだった。私自身、その辺りはズボラな人だったので、彼のそういうマメさ、というのか、連絡をしないこと、待たせること=心配させることに繋がるんだ、と学ばせてもらった。だから毎朝、彼とは「おはよう」LINEから始まり、毎晩「おやすみ」LINEで終わっていた。文字から伝わる温もりを感じ、これが幸せってものなんだなと思った。


 ある日、彼にいつも通り「おはよう」と送ったところ、返信がなかった。おかしいなと思ったが、きっと忙しい時もあるのだろう。不安だったが待つことにした。二日経ち、三日経ち、そろそろ心配もピークに達したとき、思い切って電話をかけてみた。出ない。何か事故にでもあったのでは? 彼を紹介してくれた友人に連絡を取ったが分からないという。おかしい。不安で押しつぶされそうだった。


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