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第7話 ランラン

 にこやかに微笑んでいるラングレーに桜はムっとした。

「…盗み聞きしてたの?」


 ラングレーは答えようとはせず、ただにこやかに微笑み続けた。


「ランランは良い奴かもと思ったけど、あいつらと一緒じゃん。」

「ランラン?」

「ラングレーって名前だからランラン。可愛いでしょ?あたし結構あだ名付けるの上手いんだよ。」

「…お好きにどうぞ。それよりその格好でお出かけになるのですか?せめて下着は身につけた方が良いかと。」

 ラングレーに言われ視線を下ろせば、真っ白なネグリジェから桜の体のラインがうっすらと浮かび上がっていた。


「エッチ!!今から着替えるし!扉閉めててよ!」

「手伝いが必要でしたらお声がけください。」

「着替えくらい一人でできるし!私が良いって言うまで開けたらマジ怒るから!!」

 桜は真っ赤な顔で音を立てて扉を閉め、すぐさまクローゼットへと向かった。身につけていた衣服は昨日濡れたまま放置してしまったためにまだ湿っている。


「下着はこれかな?ノンワイヤーだとバストの形崩れそうで嫌なんだけど、ワイヤー入りのブラってあんのかな…。」

 クローゼットの下の方の棚にはスポーツブラのようなものがセットで入っていた。コルセットももちろん置いてあったが、そんなものは桜が一人で着られるはずもない。


「とりまこれでいっか。ロングスカートとかあんま履かないけど、ま、これはこれでアリっしょ。」

 置いてあった服の中で一番装飾の少ない、パフスリーブのワンピースを選んだ。装飾が少ない、と言っても聖女と共に召喚された少女のために王が揃えた衣服だ。どれもリボンやレースがふんだんにあしらわれていた。

 スクールバッグから化粧ポーチを取り出し、いつものようにメイクを施せば桜の気合が入る。ヘアアイロンも持ち歩いてはいたが、部屋中を見渡してもコンセントのようなものはなく、使用することは出来なかった。



「よっし!頑張るしかない!ランラン、お待たせ!」

 扉を開くとラングレーは椅子に腰掛け紅茶を飲んでいた。窓から光が差し込み、ラングレーの美しい髪の毛が反射してキラキラと輝いていた。



「…そうして見ると、サクラ様もアストリア王国の町娘のようですね。」

「ランランそれ褒めてる?…まぁいいけど。

 さっきのメイドさんが先生が来るって言ってたけど、それいつか分かる?あと、あたしもランランが飲んでる紅茶欲しいんだけど、どうやってお湯沸かすの?」

「私は騎士であってメイドではありませんよ。」

「いや、そりゃそうだけど、仕方ないじゃん。教えてよ。」

 ラングレーはふぅと息を吐いた後、桜用に紅茶を淹れてくれた。


「ありがとー!やば、超美味しいんだけど!」

「サクラ様は朝からお元気ですね。講師の件ですが、正確な時間は伺っておりませんが、昼食前にはお見えになると言うことでした。先ほどのメイドの様子から推測するに、もうお見えになっているのかも知れませんね。」

「は?マジ?やばいじゃん!どこ行けばいいの!?」

「恐らく来賓の間かとは思いますが」

「ランラン案内して!」

 桜は紅茶を一気に飲み干すと、ラングレーの腕を引っ張るように講師の元へと向かった。



 ♢


 ラングレーが予想していた通り、講師は来賓の間にて待機していた。

「はぁはぁ…遅くなって、ごめんなさい。」

 王の住む城というだけあり、同じ敷地内にも関わらず、部屋から随分と時間がかかってしまった。息を荒げて入室してきた桜を、講師の女性はキッと睨みつけた。


「桜ちゃん!おはよう。」

「え、あ、美香さんも一緒なの?」

「そちらの方は桜ちゃんの騎士の方?はじめまして、聖女のミカ・クラハシです。よろしくお願いいたします。」

 美香はラングレーに対し、スカートをふわりと持ち上げて挨拶をした。その立ち振る舞いは、昨日までのオドオドとした美香とは違い、堂々としていた。


「これはこれは聖女様。お目にかかることが出来て光栄です。私はラングレー・ヒューストン。どうぞよろしくお願いいたします。」


 ラングレーは深々と頭を下げた後、美香と握手を交わした。昨日は桜の手を取る素振りさえ見せなかったのに。


 ムッとする桜に目もやらず、ラングレーはそのまま退室した。


「…美香さん眼鏡やめたんだね。」

「あっ、それがね、不思議なの!朝起きたら、眼鏡をしなくても見えるようになってて!」

「へー。」

「ゴホンッ!」

 美香と桜が談笑していると、後ろから咳払いが聞こえてきた。講師である、見るからに厳しそうな女性が眼鏡越しにこちらを睨んでいる。


「あ、えっと、あたしはサクラ・タチバナです。よろしくお願いします。」

「…お伺いしていた通り、自由奔放そうな方ですね。まぁいいでしょう。

 私はベルナデット・デ・ミラ・コンスタンです。普段はアストリア大学院にて魔法学の講師を勤めております。お二人はまず我が国、アストリア語の言葉をマスターしたいとのことですので、こちらを。」

 ベルナデットが取り出したのはズッシリと重い分厚い本。


「こちらは先代の聖女様も言葉を学ばれるのに役立ったとされる本です。先先代の聖女様がおまとめになられた本の写しとなります。」

「拝見致します。」

「どーも。」


 普段雑誌程度しか読むことのない桜にとって、びっしりと文字が並んでいるその本は開くだけで頭痛がしてきたが、美香は何かに気づいたように驚いた顔でベルナデットを見上げていた。


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