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第6話 メイドなんて要らないし!

 桜がレイクのマントに身を包みながら椅子の上で丸まっていると、ビショビショに濡れたレイクが戻ってきた。


「とりあえずパイプの中にあった威力調整の魔法石の力を強めたから、これでもう水は出ない。俺は細かいコントロールまでは出来ないから明日技術者を呼ぶが…なぜ魔法石を壊した?昼間の腹いせか?」

「は?壊してないし!ふつーにちょっと触ったら急に光ってレバーが吹っ飛んだだけだし!元から壊れてたんじゃないの!大体あたし魔法石ってのも今初めて聞いたし!」

「た、立ち上がるな!」


 レイクの言い方にムッとした桜が立ち上がれば、マントの隙間から桜の肌が見え隠れした。桜はその様子に慌ててまた椅子にしゃがみ込み、恥ずかしそうにしながらも

「…マント、ありがとう。洗って返すね。」

と礼を述べた。


「別に良い。とにかくさっさと何か着ろ。メイドを呼んでくる。」

「いいよ!もう夜だし、あたしが帰っていいって言ったのに呼ぶとか嫌だし。制服も濡れちゃったから今日はもうこのまま寝るわ。」

「…この部屋にある物は全てお前のために用意されたものだ。クローゼットの中に何かしらあるだろう。適当に選んで着ろ。俺は隣の部屋にいるから何かあれば呼べ。」


 レイクはスタスタと先ほど鍵がかかって閉ざされていたはずの扉から退室していった。隣は騎士達の控え室となっていたのだ。


 桜はレイクに言われた通り、ベッドの横にあったクローゼットを開けた。バスルームに置いてあったタオルも全て濡れてしまっていたためスクールバッグに入っていたハンカチで全身を拭き、自分でも着られそうな服、白いネグリジェを選んだ。


「なんか、どれも映画に出てくるみたいな衣装ばっか。こんなん着てたら動きづらいし、お金ないんだってあの黒髪イケメンが言ってたのに。今度王様に会ったらあたしの好きなタイプの服伝えよっかな。絶対こんなドレスよりは安いもんね。」

 

 桜はクローゼットを眺めながらベッドに腰掛けると、急に睡魔が襲ってきた。無理もない。異世界召喚に巻き込まれ、牢屋にも入れられ、歓迎されていない中で負けじと気を張ってきたのだ。


「めっちゃ、疲れた…」

 気がつけば桜は深い深い眠りについていた。



 ♢


「いつまで寝ているのですか!!」

 ぐっすりと眠っていた桜を叩き起こしたのは昨日会ったメイド。甲高い声が、昨日のことは夢ではなく現実だったことを桜に知らしめた。


「全く!もう聖女様はお仕事をなさっているというのに!早く起きてください!」

「分かったから、そんな大声出さないでよ。」

「ほら、さっさとネグリジェを脱いでください。本日から講師の方がいらっしゃいますからきちんと身なりを整えないといけません。この汚い洋服は捨てますよ。」

「講師?ちょ、勝手に触んないでよ!!!」

 

 メイドは昨日濡れたまま置いておいた桜の制服をまるで汚い物でも触るかのように摘み上げた。桜は慌ててメイドから制服を取り返し、メイドを睨み返した。


「…貴女はアストリア語の読み書きが出来ないということですから、そのための講師を王様がご手配くださったのです。貴女には分からないかも知れませんが、非常に聡明な方がいらっしゃるのですよ。そのような娼婦のような服装で外に出ることは私が許しません。」

「これは学校の制服だから!あんた達がバカにするような服装じゃないし!てか昨日からショーフ、ショーフって何なのそれ!」

 桜の返答にメイドは吹き出した。


「まぁ!!!娼婦の意味も分からないのですね!聖女様の隣人だったとお聞きしましたが、こんな知性のかけらもない方が隣人だったなんて、元の世界ではさぞや聖女様はご苦労なさったのでしょう。」

「はぁ?何なのあんた!超ウザいんだけど!あたし別にバカじゃないし!」


 メイドは椅子にかけられていたレイクのマントに目をやり、

「娼婦と言うのは貴女のような女性を言うのですよ。あの真面目で有名なレイク様に早速手を出されるなんて、その手の知識だけは豊富なようですね。ああ、知識は全てその揺れてらっしゃる胸に入っているのでしょうか。聖女様は沢山の知識をお与えくださるとお伺いしておりますが、貴女の知識は不要ですね。」

とクスクスといやらしい目で桜を笑った。


 この態度に桜の怒りは頂点に達し、メイドの頬を思い切り叩いた。メイドは頬を抑え、ワナワナと震えつつも桜を睨んでいた。

「あたしはあんたみたいな嫌な奴と一緒にいたくない!メイドなんて要らないから!二度と来ないで!」

「な、なんて野蛮なんでしょう!分かりました!ご命令ですから、二度と貴女に近寄りません!失礼致します!!」


 鼻息荒く出ていったメイドが音を立てて締めた扉に向かって桜は枕を思い切り投げつけた。


 はぁはぁと息を荒げていると、隣の部屋からパチパチと音が聞こえてきた。

 ドアノブに手をかけると、今日は鍵が開いており、ラングレーがにこやかに笑って拍手をしていた。



「おはようございます、桜様。」



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