第49話 嘘とか苦手だし
警戒している彼らに対し、ラングレーは必死に弁明を始めた。
「お待ちください!私達はこの近くの村で暮らすことになった者です。偶然ここを発見しただけなのです。」
「え、ランランなんで嘘つくの?家建てて欲しくて来たんだよ?」
「家だと?お前ら俺らがドワーフだと知ってここに来たんだな!誰がここを教えた!!言え!」
「チッ。」
ラングレーが舌打ちとともに桜を見れば、その笑顔はこの場にいる誰よりも恐ろしかった。
「…正直にお伝えします。我々は王よりこの領地を貰い受けた者です。私はラングレー・ヒューストン。彼女はサクラ・タチバナ。その兎獣人の子供はラビです。ここにドワーフの皆様がいらっしゃったとは、存じ上げませんでした。無断で押し入ったこと、深く謝罪いたします。」
「ここを貰い受けただと?数十年もの間、ここは放ったらかしだったじゃねか!それを今更、俺らの開拓が進んだからまた奪いに来たのか!!」
「奪うだなんて、そんな考えは微塵もありません。考えてもみてください。もし我々がここを奪いに来たというのならば、こんなパーティで来ましょうか?」
ラングレーの言葉にドワーフ達の勢いは少しずつ収まっていった。
「それもそうか。だが…そこの女。」
「あたし?」
「変なナリして、魔女だろうお前。」
「変って。JKの制服は変じゃないし!確かに魔法は使えるけどー、魔女ってなんか悪者みたいじゃん。え?なになに!?」
桜の発言に再びツルハシを突きつけた。
「やっぱりお前魔法が使えるんだな!若い女だからって、俺らを油断させようとしてもそうはいかねぇぞ!」
「ちょ、待ってよ!マジでなんの話してんの!あたし達はこの近くの村に住み始めたけど、家が超ボロいから建て直してくれる人探してここまで来ただけだって。」
「ここはそんな簡単に来られる場所じゃねぇ。」
「んなこと言っても来れたんだもん!」
桜の真剣な表情に、ドワーフのリーダーと思われる男が声を荒げた。
「案内人がいるはずだ!!誰だ!誰が俺らの情報を漏らした!」
「お前だろ!」
「アイツが怪しい!!」
「いや、お前に違いねぇ!」
「ちょ…やばくない?」
ドワーフ達は桜達に向けていたツルハシを互いに向け始め、仲間割れが始まってしまった。
「お姉ちゃん、見て。プルルンが糸を取ってくれたよ!」
ラングレーが気付かれないように剣で糸を切ろうとしても剣にまとわりつくだけで切れる気配のなかった粘着質の糸は、プルルンによって溶かすことができた。
「…今のうちにここはひとまず逃げましょう。とても話し合いが出来そうな雰囲気ではありません。」
「でもせっかくここまで来たのに!」
「ドワーフは小柄な体格からは想像のつかないほどに腕力があり、力と酒こそ全てという考えだと聞いたことがあります。ここに住むのがドワーフならば、家を建てることなど造作もないことでしょうが…酒を用意して出直しましょう。」
気付かれないよう、来た道を引き返そうと引っ張るラングレーの手を桜は振り解いた。
「サクラ様?」
「…やっぱ仲間で喧嘩してんの見過ごせないよ!」
「ちょ、こんな狭いところでお前の魔法を使ったら危険だぞ!おい!」
ラングレーの声を聞いても桜は足を止めず、ドワーフ全員の頭上から水を降らした。
「うわっ!冷てぇ!」
「おい、お前らいつの間に網から抜け出した!!」
喧嘩の手を止め再び桜達に立ち向かおうとするドワーフに、桜は深々と頭を下げた。
「みんなの家なのに勝手に入って来て、本当にごめんなさい!」
そして胸ポケットに仕舞っていたヴァルナフォンを頭上に掲げた。
「サクラ、やめろ!」
「これはヴァルナってこの世界の神様?にもらったスマホ。えっと、この世界だとまどーぐってやつ?これで、家を造れる人って検索して、ここに来たの。だから、誰かから教えてもらったとかじゃなくて、強いていうなら神様に聞いた的な?」
ドワーフ達は桜の発言にどよめいた。そして先ほども前に出て発言をしていた一人が他のドワーフを黙らせ、口を開けた。
「…お前は絶対神ヴァルナの遣いだとでも言うのか。」
「つかい?ヴァルナとはダチだよ!友達!」
「信じられんな。それが本当だとすれば、どうしてそのような人間がこんな辺境に追いやられたのだ。」
「追いやられたんじゃなくて、自分の意志で来たんだよ。」
「王都での暮らしの方が人間には適しているだろ。」
「あー…あたしとそのランランは人間だけど、村にいるのは後はみんなラビみたいな獣人なのよ。それに王都だと色々制限しなきゃいけなかったりでダルいから、王都から離れてる方があたしも気楽なんだよね。」
ラビは怯えつつも桜に駆け寄り、
「ボ、ボク達は穢れで村を無くして、王都に行ったけど、お腹空いてて。サクラお姉ちゃんが助けてくれたんだよ!良い人なんだよ!」
と懸命に桜を庇った。
「…兎獣人の子供か。確かに人間は種族差別意識が強いからな。お前さん達は住みづらいだろうな。で、姉ちゃんは人間の癖にどうしてまたそいつらを庇ったんだ?」
「庇ったって言うか、別にこういう差別とか見てられないだけ。あたしがいた世界では、獣人とかもいなかったし、普通に可愛いと思うんだけどね。」
「サクラ!」
ラングレーが桜の発言を諌めたが、時すでに遅し。
「お前、異世界人か!?聖女様ってことか!?…いや、聖女だったらこんなとこにいるわけねーか。だが」
「あー、ランラン、ごめん。あたし嘘つくのとか苦手だから説明するわ!」
「…もうお好きにどうぞ。」
ラングレーは疲れ切った顔で座り込んでしまった。
「あたしは異世界から来たけど、聖女じゃない。聖女はあたしの知り合いの美香さんで、あたしは巻き込まれちゃった感じ?聖女じゃないけど、魔法は結構使えるよ!あ、これは王様には言ってないから内緒ね。」
「嘘じゃねぇだろうな?」
「嘘じゃないけど、嘘じゃないって証明すんのってめっちゃムズくない?だからさ、えっとドワーフさん?」
「フレェヴィオだ。」
「ふぇ…びーお?さん?」
「さんは要らん。好きに呼べ。」
「おけー。フェレ達はさ。腕に自信ある系なんでしょ?」
「当たり前よ。俺らドワーフは鍛治を生業にしてんだ。堅ぇ岩肌を採掘出来る腕がなくて鍛治が務まるかよ。」
「じゃ、あたしと腕相撲しようよ!そんでさ、あたしが勝ったらあたしが言ってること信じてよ!」
桜がにっこりと笑いながら提案しているのに対し、フレェヴィオの表情は真剣そのものだった。
「よし、お前の言葉を信じ、家も好きなだけ建ててやろう。代わりに俺が勝ったらお前らを殺す。いいな?」
「え?マジ、超ハードル上げんじゃん!ま、あたし負ける気しないからいいけど。」
「ガハハハ、言うな!怯むどころからその姿勢、気に入ったぞ!おい、お前ら土台を作れ!!」
フレェヴィオの指示に従い、ドワーフの数名が聞き取れない言葉を発したと思えば、桜の肘の高さほどに土が盛り上がり、一方にはフレェヴィオがその高さに届くよう台も造られた。
「本気で行くよ?」
「当たり前だ。」
桜の異世界での初めてのバトルが始まろうとしていた。