第47話 魔法だけじゃどうにもならん
食事を終えた後、桜の魔法で片付けを行なっているとラングレーが獣人達に説明を始めた。
「獣人の皆さんには馴染みがないかもしれませんが、本来魔法をサクラほど使いこなすことは出来ない。これからこの村を開拓するにあたりサクラの魔法を活用していきますが、それらは全てあり得ないことが起こっていると思ってください。従ってサクラの魔法についてを話すことは全て禁止事項にあたります。いいですね?」
獣人達は皆揃って首を縦に振った。
「じゃ、まずは今にも倒れそうな家を取り壊すか。サクラ。」
「え?あたしがやんの?どうやって?」
「土魔法とか風魔法とか?」
「は、ランラン適当すぎん?」
「魔法は想像力だと、ヴァルナ様も仰っていたではありませんか。」
「そうだけど…ま、とりまやってみるか。指輪外しても大丈夫?」
「ええ。王都からここは離れてますしね。ただ威力出しすぎないでくださいね。」
「おけ。」
桜は一軒の家の前に立ち、手を前に出した。そして
「崩れろ!」
と言うと、積み木を崩したかのように、意図も容易く家はガラガラと音を立て崩れていった。
「おーーー!」
獣人達の歓声に桜も誇らしげにVサインで応えた。
「お見事!でも、威力の調整はやっぱり課題だな。」
「え?」
ラングレーの言葉で振り返ってみると、一軒だけ崩そうと思っていたにも関わらず、その奥にあった家達も軒並み崩れていた。桜達が仮の棲家にしていた家すらも、瓦礫となっていた。
「マジか。」
「みんなここにいて良かったですね。」
「…気をつけます。」
その後瓦礫を砕いて土にした後、桜はそれを使って再び家を建設した。
家、と言うよりは、土を固めて出来た四角い箱の上に三角形が乗っているものが出来たと言った方が正しいようなデザインだ。
「これは、サクラの世界の家か?」
「うるさいー!あたし絵心ないんだって!てか土で家造りってさ、雨降ったらどうすんのこれ。」
「え?」
「え?」
桜の問いに対して誰も答えを持たなかった。
この世界でも家を建てる知識を有している、専門の職人がいる。獣人達のような集落で暮らしている者であれば草木で編んだ家を手分けして作ることが一般的だったが、ここにいる獣人達は子供が多く、それらを作った経験のある者はいなかった。
「マジかよ。」
「ま、まあ形にはなってるし、元々ここにあった建物と同じ材料ですから問題ないのでは?で、中にはどうやって入るのですか?」
「あ。…タンマ!やり直し!中がちゃんと空いてるイメージで…うわっ、崩れるな、えっと…」
何度も崩しては立てを繰り返すことが出来たのは桜の異常な魔力量の賜物だったが、どうしても中を空洞にすると上の重みに耐えられず、屋根が崩れ落ちてしまった。
「うん。おけ。スマホ使うわ。」
桜は胸ポケットに仕舞っていたヴァルナフォンを取り出し、検索窓に『土の家 造り方 簡単』と打ち込んだ。
表示される造り方には大半が設計図や土の配合など、事細かに書かれており、桜の頭で理解することは困難を極めた。
「とりま水を混ぜりゃいいのかな。」
そっと胸ポケットに戻し、崩れた家に水をかけ粘土状になったもので、今度は桜がイメージしやすい中が空洞の状態のものを想像した。
「…あ、あはは、これでとりまいいかな?」
「おお、これが…家、か?」
丸い半円のような形に一箇所だけ穴が空いて中に出入りが可能になっている。地球で桜も作ったことのある、カマクラだ。
魔法がいくら使えようと、具体的な想像が出来なければ創り出すことは出来ない。桜にとってこれが限界だった。
「いいでしょ!ランランだって造り方知らないんだから!屋根あるし、家じゃん!」
「中は暗いけど、結構あったかいぞ!」
「本当だ!広いね!」
「ほら、みんなは喜んでんじゃん!ランランもさ、もうちょっと喜んでよね。」
拗ねた桜の頭にラングレーの大きな手が触れた。
「…すごいすごい。サクラ、頑張ったな。」
イケメンセクシーお兄さんのラングレーのよしよしの威力は抜群だった。桜は
「ヒョエ」
と変な声を出し、フリーズした後、後ずさりしラビ達のいる真っ暗なカマクラの中に飛び込んだ。
カマクラの外からはまたラングレーのヒーヒーと言う笑い声が聞こえていた。
(あたしのことからかって遊んで、マジムカつくんですけど!)
その夜はカマクラの中を点灯で灯し、桜はラングレーを威嚇しつつみんなで持っていた藁を敷いて、朝を迎えた。
ベッドが欲しい、とまでの贅沢は言わないが、もう少しまともな生活環境を整えなければ数日後には起き上がれなくなることを桜は予感した。
「うっ、身体がマジで痛い…。」
ラングレーはまだ桜よりは慣れてはいるようだが、それでも馬車移動からの固い地面での雑魚寝。相当堪えているようだった。
「ランラン、家と家具がマジで必要だわ。」
「…その意見には賛成だが、王都には戻れないし、このあたりの村にそんな職人がいるとは思えないな。」
「ちょい待ち。」
桜は再びヴァルナフォンを取り出し、地図アプリを立ち上げ、『家を造れる人』と検索した。
「結構近くにいるっぽいけど。ほら。」
「私にはその魔道具は見えない。」
「あ、そうだったね。えっと、現在地ここだから…あっちの方!」
桜が指差したのは馬車で通って来た道とは違う、開拓もされていない山の中だった。
ラングレーは桜の間違いだというように鼻で笑ったが、ヴァルナフォンの情報が嘘であるはずがない。
「絶対合ってるから!!」
「…仕方ないな。いずれは山の中の探索をしなければと思っていたし、ついでに行こう。では俺とサクラで探索。ベリアルは何かあった場合に備え、ここで待機。いいか?」
「分かった。」
「ボクも行きたい。お願い、ボクも連れて行って!耳がいいから、何かあったらすぐに気がつけるから、役に立てるよ!」
「ラビ、いい子だからお留守番してて。なんか美味しそうなのあったら採ってくるからさ。」
「やだ!!!」
「サクラ、日が高いうちに行った方がいい。そう遠くないのであれば、ラビを連れて行こう。その代わり、何かあれば自分で自分の身を守れよ?いいな?」
「うん!ありがとう、ランランお兄ちゃん!」
「ランランがそう言うならいいけど…ラビ、あたし達から絶対離れないでね?」
「うん!わっ…プルルンも行くの?」
嬉しそうに笑うラビの頭に以前桜が捕まえ、以降ペットとして飼っているスライムのプルルンが飛び付いてきた。会話こそ出来ないものの、プルルンは今ではすっかり獣人達のみんなにも溶け込み、子供達の良き遊び相手だ。
「よし、行くぞ。」
「うん、じゃ、みんな行ってきます!!」
「気をつけてなー!」「早く帰って来てねー!」
獣人達に見送られながら、地球でもこの星においても、桜は初めての山への一歩を踏み出した。