第44話 自由がなくちゃ
今回ももちろん事前の謁見の申し出などしてはいない。それでも桜が再び大声で
「王様いますか!?」
と騒ぎを起こせば、使いの者がやって来て、時間をもらうことに成功した。
王の間は何度来ても厳かな雰囲気に威圧される。
「サクラ、元気にしていたか。今日は時間があまりない。」
「急に来てごめんなさい!あの、王都を出ようと思うんで、それを伝えに来ました!今までご飯とか寝る場所とか、王様のおかげで助かったので、そのお礼を言いたくて!
ありがとうございました。」
桜は深々と玉座に向かって頭を下げた。
「気にすることはない。お前をこちらの世界に連れて来てしまったのは我々なのだから。して、王都を離れ、どこへ行くと言うのだ?」
「決まってないけど、でも、ここでこのまま面倒見てもらうのはなんか嫌だし、それに…」
「ウィリアムに何か言われたか。」
まるで心の声を読んだかのような王の一声に桜は目を見開いた。
「えっと、別にあいつ、王子に言われたからじゃないんですけど、いつどこに行っちゃダメとか、なんかそういうの嫌で。どうせ元の世界に戻れないなら、あたしはあたしで自由に暮らしたくて。」
「ふむ。あの獣人達と暮らすのか?」
「…多分。」
「分かった、ではこうしようじゃないか。ちょうど王都から北の方に集落の跡地がある。今は誰も住んでいないが、そこをサクラの領地とすると良い。」
「リョーチ?」
「お前の管理する土地ということだ。」
レイクが後ろから囁いた。
「今はまだ国内の状況は芳しくない。私がお前に出来るのはこのくらいで申し訳ないが、それでどうだろうか。」
「いい、いい!あたしも獣人のみんなもそこに暮らしていいってことでしょ?超助かるよ!王様、ありがとう!」
「うむ。では馬車の用意をするように伝えておく。
そうだな、護衛のことも考え、聖女たちの出立と重ならないよう…3日後までに支度を整えろ。良いな?」
「3日!?超早いけど…分かりました。王様、ありがとうございます。」
桜とレイクが再び頭を下げ退室すると、レイクの表情は暗かった。
「ちょ、どしたん?あたしが出て行くから寂しいの?」
「お前は呑気なものだな。王都にいればなんでも手に入る。それを捨てて何もない場所に行くなど。」
「なんでもじゃないよ!」
「金があれば大抵のものは手に入るだろう。店も順調だと聞いたぞ。」
「お金があっても自由がないなら、あたしはイヤ。あたしはもう、誰の言いなりにもなりたくないし、自由に生きたいんだ!」
桜がくるりと振り返りニカッと笑った。その笑顔に嘘はなく、桜が心の底から王都を出られることを喜んでいるのだとレイクに伝わった。
「…そうか、自由、か。」
♢
翌日桜はローザスやラングレー、カイル、獣人達へと3日後に王都を出ることを伝えた。獣人達はもちろん桜とともに王都を出て行くことを快諾し、護衛騎士3名がそのまま新しい土地までの護衛も行うこととなった。
出発の日、ローザスは涙ながらに桜を抱きしめ、オジスタンは特大のお弁当を作って見送ってくれた。
「みんなありがとう!!またねーーー!!!」
城を出、獣人達も馬車に乗せていると、アナが駆け寄ってきた。
「まだまだサクラのアイデア聞きたいから、絶対遊びに行くわ!」
「ありがとう!アナももっともっと有名なデザイナーになってね!」
「サクラ!気をつけて行けよ!」
「俺たちの聖女に幸あれ!!」
煙がられていた獣人達も含め、桜一行は暖かく見送られ王都を後にした。
桜が領地としてもらった場所は王都から馬車で1週間ほどの距離。桜にとって初めての馬車の旅だったが、ラングレー協力の元、仕入れた食材や魔法を駆使すればさほど苦を感じることもなく、楽しい旅だった。
何よりも寝ても覚めても隣に桜がいることにラビをはじめとした子ども達が喜んでくれる様は、桜の母性を射止めた。
(みんなふわふわで、マジ可愛〜)
そしていよいよ桜に与えられた土地に到着。聞いていた通り、確かに村だったらしき形跡はあるが、建物は今にも崩れそうで、ない方がマシにも思えるほどだ。
それでも桜も獣人達も、自分達だけの場所と思うとなんだか愛着が湧いてきた。
「…ここで、みんなとはお別れだね。」
桜の護衛を担当していた3名の騎士とはここでお別れ。これで護衛騎士の任を解くという約束になっていた。
「サクラ、色々ありがとな。頑張れよ。」
「ワンくんも騎士として、頑張ってね!」
よしよしと頭を撫でても、今日ばかりはカイルも抵抗しなかった。
「私はここに残ります。」
「え?ランラン帰らないの??マジで?」
「剣の腕が立つものがいた方が色々楽でしょう。城にいる意味も特にありませんしね。退職届も出してきましたから。」
桜がラングレーの発言に驚いていると、
「…カイル、行くぞ。」
とレイクはすぐさま馬車に乗り込んでしまった。
動き出す馬車に向かい、桜は大きく手を振りながら
「レイクも色々ありがとう!!気をつけて帰ってねー!!!」
と大きな声で馬車を見送ったのだった。
こうして桜の新しい土地での暮らしが始まった。