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第42話 救世主って柄じゃない

 いつものように桜が屋台へ行くと、桜を見るなりラビが駆け寄って来た。


「サクラお姉ちゃん、大変だよ!」

「どうしたの?」

「おっ、サクラ、来たのか!!」

「おお、あれが噂の救世主か!!」

「は?ちょ、ちょっと何!?」


 あっという間に桜は大勢の人に取り囲まれ、護衛のラングレーがなんとか前に立ちはだかっても、その勢いは止められず壁に押し寄せられてしまった。


「お前のおかげで街が燃えずに済んだ!ありがとうよ!」

「サクラは凄い魔法使いだったんだってな!」

「ちょ、何、何それ。誰が言ってんの!」


 困惑する桜にラングレーが遠くの方を指差した。

「サクラ様、あちらをご覧ください!」

「ん?」


 ラングレーの指差し方を見れば、『街の救世主、水魔法の使い手サクラデザインのドレス』と大きな旗を掲げ、自慢気に服を売り歩くアナの姿が人混みに見えた。



「ちょ、ちょっと退いて!!アナ!!何してんの!!」

「あっ!サクラ、見て!ミニスカートの服がこんなに売れてるのよ!凄いでしょ!」

「違くて!!」


 桜が人混みをかき分けなんとかアナの元に辿り着くと、アナは悪びれるどころか嬉しそうにミニスカートやワンピースを見せびらかした。桜が鼻息を荒くしても、どうしたの?という顔だ。


「…なんであたしが水魔法使ったって知ってんの?」

「ああ!私、服を作っていると周りが見えなくてね。あの日も気が付いたら煙の中で、びっくりしちゃったのよ。

 私の勤め先、あそこの2階でしょ?苦しいなぁって思って、窓を開けたら外の方が煙たくて、洋服にも臭いがついちゃうって思ったら、サクラが水で火をどんどん消してくれたから、助かっちゃった!ありがとう!」


 忘れていた。タピオカ屋の屋台がある場所とアナの勤めている洋服店は目と鼻の先なのだ。そもそも煙が上がり住民全員が避難していたあの状況で、まだ建物に残っている人がいるとは思ってもみなかった。



「…で、なんでそれを宣伝してんの?」

「もう、サクラったら商売を分かってないのね!ミニスカートはまだまだ最先端のデザイン過ぎて中々受け入れてもらえていないのよ!これをもっと広めるためにはキッカケが必要なんだから!街の救世主サクラのデザインと言えば、みんな手を出すに決まってるわ。

 あ、もちろんサクラにもデザイン料を支払うから安心して。」

「いやそういう事じゃなくて…。」


 桜が戸惑っていると、二人の間に割って入るように次々と火事現場近くの住民達が深々と頭を下げて桜にお礼を述べに来た。

「君のおかげで商品も燃えずに済んだ。本当にありがとう。」

「家を失わずに済んだのは貴女のおかげね、ありがとう。」

「え、いや、あたしは別に…」


 魔法を使ったことが公表されてしまうのは問題だが、感謝されることに悪い気はしなかった。


「やっぱり桜お姉ちゃんは凄いな!みんなの聖女様なんだから!」

「ラビ。」

「はははっ、違いねぇ。サクラは俺たち商店街の聖女様だな!」

「ちょ、やめてよ!あたし聖女なんかじゃ」

「「聖女サクラ、バンザーイ!!!バンザーイ!!!」」


 聖女という言葉に反応してしまうが、みんなの笑顔を見ると強く否定することも出来ず、桜は商店街の聖女という謎の異名を付けられてしまった。


(ま、別に喜んでくれてるならいっか。)



 ♢



 商店街の聖女サクラのデザインしたタピオカや衣類は瞬く間に王都で話題となり、貴族の使いまでがタピオカ屋に並ぶことが増えた。


 店の繁盛は、イコール獣人たちの生活の向上を意味する。

 全員分の新しい衣類にお皿、毛布、食事が買えるほどに利益が生まれ喜んでいたのも束の間。桜は帰城した王子と聖女美香の元に連行された。



 いつものように騎士寮でローザスと共に仕事をしていると、鎧を付けた兵士が音を立てて騎士寮に乗り込んできたのだ。

「お前がサクラだな!王子がお呼びだ!来い!!」

「ちょ、何何!痛いんだけど!!!」

「サクラちゃん!おい、何してんだお前ら。この騎士寮はあたしの縄張りだ。勝手に入ってくんじゃねーよ。」


 桜の腕を掴み上げた兵士の肩をローザスが掴むと、鎧がメキっという音を立て凹んだ。


「ひっ、こ、これは王子からの命令だ!王族に歯向かうのか!」

「あぁ?何の用だって」

「ローザちゃん、いいよ。ありがとう。いつか呼び出されるかなって思ってたから。仕事の途中で抜け出してごめんね。」

「…サクラちゃんがそう言うなら。仕事は気にしなくていいわ。夕飯作って待ってるわね。」

「うん!」



 ローザスに見送られ、桜は久しぶりに以前と同じ、聖女の部屋へと向かった。


 この扱いすらもどこか懐かしいと思えるようになったのだから、桜も根性が座っている。



「中で王子と聖女様がお待ちだ。」



 兵士に言われるがまま、桜は再び扉を叩いたのだった。

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