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第41話 水水水!

 聖女の帰城に伴い、桜の騎士寮の仕事も少しずつ慌ただしくなる一方で、タピオカ屋は順調に滑り出し、今では開店前から並ぶ人も増えていた。制服も可愛いと女性からも評判を呼び、アナ自身の針子としての仕事も増えたそうだ。


「これ、お礼に。」

「あたしの分の制服!?マジでアナ、ありがとう〜!めっかわ!!!」

「タピオカ、針子仲間の間でも人気だよ!頑張ってね!」

「アナもね!」


 レンタル料分の稼ぎは出来そうだったがまだ制服をオーダーするまでには届かず、もうしばらくお預けだと思っていた制服をアナの好意によって手に入れることが出来た。着て見れば桜の体型にぴったり。流石はオーダーメイドだ。


「よっし、今日も頑張ろうー!」

「おー!」



 タピオカ屋が繁盛することで、獣人達の生活環境も随分とマシになった。窓もない土で出来た家らしき建物には、ガラス窓と扉がはまり、随分と家らしい見た目に変わった。桜が運んだり物乞いをいなくても、お腹いっぱいとまでは行かずとも、食べ物を手に入れることが出来るようになった。

 そして獣人達と共にタピオカ屋を営む人間ヒューマンとして、桜も自然と街の一員として認められるようになっていった。街を歩けば、挨拶を交わせる人が増え、桜自身もこの生活にやりがいを見出してきた。


 この生活は、聖女美香と王子達が帰城し、騎士寮の仕事がどっと忙しなろうと、変わることはなかった。

 美香は桜に会いたいと申し出たようだったが、美香がどこも怪我をしていないという情報だけ聞くと、面会自体は多忙のため断りを入れた。

 伝達係をさせられているレイクに無理にでも連れて行かれるかと思いきや、すんなり了承し、上手く断ってくれたようだった。



 ♢



 この日もいつものようにラングレーとプルルンと共に街へ桜が繰り出すと、タピオカ屋の近くが騒がしかった。


「何?なんか焦げ臭い?」

「どうやら火災が発生しているようですね。あまり近付かない方が良いかと思います。」

「マジ!?それヤバくない?屋台燃えたらどうなんの?」

「全額買取の弁償ですね。」

「え、屋台燃えちゃうの!?そんなのダメ!」

「ラビ!?」


 桜と手を繋いで歩いていたラビが急に走り出し、煙の上がる方へと走って行ってしまった。


「やばいじゃん!」

「サクラ様!どうされるおつもりですか!警ら隊が来ますので彼らに任せましょう!」

「ラビを連れ戻さないと!!!」

「あっちょっと!」


 桜もラビの後を追うように煙の中へと飛び込んで行く。

 走れば走るほど煙は濃くなり、視界を奪われる。


「やば、ラビどこよ。ゲホッ…あ、スマホで探せばいいのか。」

 ラビットと名前を打ち込めば地図アプリ上に位置が表示される。桜は自分の位置を確かめながらラビの元へと走った。



「ラビ!大丈夫!?」

 屋台の下に倒れ込んだラビの姿を見つけた。


「ゲホッゴホッ…サクラおねえちゃん。みんなの、屋台が燃えちゃう…。」

「ちょ、しっかりして!あたしがなんとかするからここ動かないでね!」



 地図アプリで火災現場を探せば、以前見かけた串焼き屋が火元のようだった。火元から屋台までは距離があるはずだが、屋台の大半は木材で出来ているため、火が燃え広がってしまったのだ。


「エーさん、ごめん!」

 桜はエドナーの指輪を外し、燃え広がる建物目掛けて大量の水を放出した。


 魔法は想像力。ヴァルナにも教わったことを思い出し、シャワーのように、水圧で建物が壊れないよう広範囲に渡って水をかける。同時に風を起こし、煙が上空に分散されるようにすれば、随分と視界もクリアになっていった。


「おい!誰かいるのか!!」

「やばっ。ラビ、捕まって。行くよ!」


 警ら隊が到着すると、桜はラビを抱き抱え人混みへと駆け込んだ。見慣れた顔の面々はラビを救い出した桜を褒め称え、ラングレーもほっとしたような顔をしていた。

 誰の計らいか、桜が逃げ出すと同時に雨が振り出し、桜が鎮火をしたことは誰に気付かれることもなかった。


「雨に救われましたね。」

「え、えへへへ。ま、屋台も無事だったし、良かったでしょ。一応エーさんには謝りに行こうかな。」

「言わなければバレないのでは?」

「うーん、そうだろうけど、約束したことだからちゃんとしたいんだよね。」

「左様ですか。」


 この日はこんな騒動もあったため、ラビを家へと送り届けた後はすぐに城へと戻りエドナーに謝罪を述べた。ラングレーはまた部屋には行かず下で待機をしていたが、予想とは違い、エドナーがキツく怒ることはなかった。


「誰にも魔法を使ったところは見られなかったのならば良い。むしろお前のおかげでその獣人も救われた。良いことをしたな。」

「エーさん…!」

「だが一人で飛び混むのはよくない。サクラほどの魔力、体力があればたかが火災で命を落とすことはないかも知れないが、その安易な考えは怪我の元だ。そのためにラングレー達がいるのだからな、一人でやろうとするのは止めろ。」

「…はい。」

「分かったなら良い。頑張ったな。」


 エドナーの大きな手が頭を撫でると、とても安心した。



 反省点はあるものの良いことをしたことに桜が満足気に過ごしているのも束の間、その翌週、桜が街に行くと大変な事態に陥っていたのであった。



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