第4話 王様良いやつじゃん
美香は聖女になるためにこれから忙しくなるとかで話の後すぐに神官達に囲まれてどこかへ消えて行った。桜は一人部屋に取り残され、残った紅茶を啜っていた。
ふとスマートフォンを見ても、ここでも圏外。
やることもなく先ほど渡された本をパラパラと捲ると、そこには見慣れた日本語がビッシリと書かれていた。
「ヤバ。この人超字キレーじゃん。…めっちゃ帰りたがってる、なんか、超可愛そう。」
最初のページに書かれていたのは、聖女召喚をただただ恨む内容だった。
どうして自分なのか。いつ帰れるのか。会いたい。所々、インクが滲んでいた。
(私も帰りたいけど、この人ほどじゃないな…。)
コンコンッ。
突然ノックの音が響き、桜は心臓が飛び出るほどに驚き、本を机に置くと「はい!」と大きく返事をした。
扉を開けたのは先ほどの黒髪の男。
「来い。王様がお呼びだ。」
「え?王様?え、ちょ、王様って一番偉い人じゃん!あたしこの格好でいいの?ちょっと、置いてかないでよ!」
♢
男の跡をついて行くこと数分。桜は玉座のある大きな広間で横にいる男に合わせて頭を下げていた。
「そう堅くならず、楽にしてくれ。其方が聖女召喚に巻き込まれた女性だな。」
「はい!あたしは立花 桜って言います!」
「そうか。サクラか。」
「え!」
桜は王という存在に初めて会ったものの、周囲の対応やそのオーラから凄い人だということは肌で感じ取っていた。その王が、桜に頭を下げるものだから、桜も慌ててしまった。
「此度は我らの身勝手な召喚に巻き込んでしまい、申し訳なかった。先ほど聖女ミカとも話をしたが、其方はまだ学生だったと言う。未来ある若者にこのような仕打ち。本当に済まない。」
「ちょっ!王様!いいよいいよ!マジで頭上げて!そりゃさ、ビックリしたし、やばいなって感じだけど、でもなんかあたしでも?力になれることがあるならさ、やるし!
てかさっき王子?ビンタしちゃったけど王様の息子さんだよね?ちょっと大人気なかったかも〜って思ってるから、それでチャラってことでいーよ!」
王様はキョトンとした顔を見せた後、高らかに笑い出した。
「ハハハハハッ!そうか、ウィルを殴ったのか。いや、あいつが無礼なことをしたのだろう。一人息子でな、つい甘やかして育ってしまった。重ねて私からも詫びよう。」
「マジでそういうのいいから!あたしもなんか聖女様の日記の翻訳やってる間、ここに住まわせてもらうってなったからさ、こちらこそよろしくお願いします!」
「おお、聞いておる!そうだ、そのことで呼んだのだ。」
王様が何やら合図をすると、跪いていた黒髪の男が立ち上がり、その横に二人の男がやって来た。
「サクラ、この者達は我が国の騎士だ。この世界は君達の世界よりも何かと危険だからな、彼らと行動を共にすると良い。歳が近そうな者を選んだが、腕も確かだぞ。後は部屋にメイドも用意しておく。その他必要な物があれば遠慮なく言ってくれ。」
桜の騎士に選べれた男達は顔面で選んだのか?と聞きたくなるほどに、全員が美形で、その眩しさに口を閉じることを忘れてしまうほどだった。
(え、やば。国宝級なんですけど?え、マジであたしの騎士なの?何?やば?あたし、お姫様?てか、えーーー耳!耳生えてるー!可愛いーーーー!)
3人の内の一人は桜よりも頭1つ分程度小さい少年で、その茶色い短髪からはピンとした耳が出ていた。よく見れば後ろに尻尾もあるようだ。
「左からレイク・アリア。カイル・バーク。ラングレー・ヒューストンだ。」
「立花桜です。サクラって呼んでね!よろしく!」
桜がにっこりと笑いかけても、レイクは無表情のまま、カイルは少し眉を顰めるだけ。一番身長の高いラングレーだけはにっこりと返してくれた。
(おお、エロ!エロお兄って感じ!)
「さっ今日はもう疲れただろうからな、部屋でゆっくり休んでくれ。」
「あっ、王様色々ありがとうございます!あたし、頑張るね!」
レイクに引っ張れる形で退出しながら、桜は王様に手を振ってにこやかに退出した。
(王子がクソだったからビビってたけど、超優しいパパだった〜)
「ここがお前の部屋だ。」
「あっ、あたしのスクバ!や〜ん、良かった!返してくれなかったらどうしようかと思ってたわ。」
桜の部屋には牢屋に連れて行かれた際に没収されていたスクールバッグが机の上に置いてあり、桜はそれを大切に抱きしめた。
振り返ると、扉の横にはメイドが3人頭を下げて静かに立っていた。
桜は3人の騎士とメイド達に手を差し出し、
「立花 桜です!これからよろしく!」
とにっこり笑ったが、ラングレーが微笑み返す以外、誰からも返事はなかった。
(か、感じ悪〜〜〜!!!!!)