第39話 思ったより簡単っしょ
獣人達が採取した物を選別しスクールバッグへ全て収納すると、この日は獣人達と別れ、翌朝再度ラングレーと共に訪問した。
「サクラお姉ちゃん、おはよう!今日もお外行く?」
「今日は昨日採ってきた物からタピオカ入りブラックティーの作り方を教えるよ!
でもその前に…浄化!みんなの身体を綺麗にするとこからやんないとね!」
桜は昨日同様に全員に二回ずつ浄化を行い、その後獣人達が雨風を凌ぐために使用している廃墟となった建物へ場所を移した。
「ゲホッ!やば、本当にここで寝てんの!?埃だらけじゃん!マジで病気になるよ。」
「んなこと言ったって仕方ねぇだろ。俺らは金もねぇし、屋根がある場所で作るならここしかねーよ。」
「マジか。…家も綺麗に出来んのかな。」
「浄化!」
桜が土壁に手を付け浄化を行うと、壁は見る見るうちに本来の白さを取り戻し、空気も随分と軽くなった。
「うん、ま、こんなもんか。稼いだらまずは家を作り直そうね!」
「サクラすげーな!!なんか俺、やる気出てきた!」
「俺も!何からやったらいいんだ?」
「テンション上がってんじゃん!いいね!じゃあ、まずは芋を切る!えっと…」
「キッチンはこっちだよ。」
桜がキョロキョロとしていると、ラビが手を取り隣の部屋へと案内してくれた。
「ここがキッチン。ここにね、木を入れて、火打ち石で火種を作ったら、火が出るの。」
「へー。なんか歴史の授業で聞いたことあるかも。じゃあ芋をまずは出すね。水はある?」
「外に水瓶があるよ。これ。」
「あー…なるほど。」
蓋もされずに外に置いてある水瓶を除けば、やはりそこは桜にとってとても使いたいとは思えない水が入っていた。
「おけ。じゃあさ、まずは水瓶を綺麗にしたいから、一回中の水捨てよう。ベリアル、いい?」
「任せろ。」
熊の獣人だというベリアルは足を引き摺りながら歩いてはいるが、ここで1番の力持ちである。雨水の溜まっている水瓶を軽々持ち上げては、桜の指示通り中の水を空にした。
「浄化!んで水入れて。この水を今後は使おうね。このまま中に置いておこっか。」
「うん。」
「ではやっていきまーす!まずは昨日採ったキャル芋を半分に切る。んで、この真ん中に黒いのがあるじゃん?これが毒だから綺麗に手で全部取って、取ったら水で洗う。その後、茹でたらこの摺鉢でひたすら潰す!ドロドロの状態になったらタオルで漉しながら別の鍋に移して、水を入れて放置。
この間にファミナの花を鍋で煮詰めるよ!えっと火は…」
「ボクが着けるよ。」
ラビが慣れた手つきで隅に置かれていた枯れ木を焚べ、その上に枯れ草を置き、火を着ける。
「おー!マジで着いた!すごいね、ラビ!!」
「えへへ。」
「じゃあここに鍋置いて、焦げないようにゆっくりかき混ぜていけば、甘い汁の完成!芋の方は…お、いい感じ。
この水を捨てると…ほら、下に溜まってるのがタピオカの素だよ!」
桜が鍋を見せると鍋の底にはドロっとした白い塊が沈澱していた。
「これか?なんだか、粘土のようだが。」
「これをね、乾燥!ほら、粉になったでしょ?みんなは天日干ししたら同じになるからそうしてね。
この粉に、さっきのファミナの花を煮詰めて出来た液体をちょっとずつ入れて捏ねて、小さいボール状にして、茹でる!はい!キャル芋のタピオカ完成で〜す!食べてみて。」
ラビの口に一粒放り込むと、もちもちとした食感と甘味のあるタピオカに口元が緩んでいく。
「紅茶の作り方は昨日見せた通り。ぶっちゃけ乾燥使えないと茶葉にすんのはキツいから、それはあたしがやるわ。お茶淹れるのは、冷たい方が美味しいらしいからさ、この水に茶葉入れるだけだよ。どうよ、簡単っしょ。」
「まあ確かに。」
「原料も外から採ってきたものだけ。サクラ様の魔法がなければ成り立たない部分もありますが、確かにこれなら原価は0円ですね。味も良いですし、ファミナの花の効果で回復成分もある。加えてキャル芋の毒の取り除き方がこんなに簡単だとは。」
「そそ。結構簡単だよねー。このタオルの方に残ってるやつもさ、肉に混ぜて炒めたり、色々使えるらしいからこれはみんなの食事に使うといいと思う。」
桜は先ほどからずっと口もモゴモゴ動かしているラビの頭を撫でた。桜の目的はタピオカを広めることではない。獣人達が飢えずに暮らせることなのだ。
「ま、とりま失敗したらまた考えればいいし、これ売ってみようよ!売り子は可愛い子がいいから、あたしとラビとメーちゃんね。」
メルミア。彼女は桜と同い年くらいの羊の獣人だ。おっとりとしていて静かな性格だが、幼い獣人達を世話している、ここの母親のような存在である。
「は、はい。頑張ります。」
「ボク達はー?」
「他のみんなは、ベリアルと一緒に外に材料を採取するチームと、ここで調理をするチームに分かれて。ま、どんくらい売れるか分からないし、キャル芋って採取したらどんどん毒が強くなるらしいから、1日で処理できる量にしといた方が良き。」
「分かった。」
テキパキと指示を出す桜にラングレーが後ろから声をかけた。
「とても良い案だと思いますが、商業ギルドから販売許可がなければ商売はできませんよ。
何か商いをするためには必ずギルドの承認が必要です。最も、王都での販売許可は信頼が物を言います。コネクションのないサクラ様や獣人の皆様では、難しいかも知れませんがね。」
「は、マ!?そんなの必要なの?ヤバいじゃん!とりまその商業ギルドに行くしかないじゃん!」
嬉しそうにしていた桜の顔が一変して青くなると、ラングレーはいつものにこやかな笑顔ではなく、大声で笑いだしたのだった。
「え、なに」
「ハハハ、そんなことだろうと思ったので手配しておきました。私の家は商業ギルドと密な関係なのでね、あー、さっきの表情面白かったですよ。」
「っ!!!ランラン、マジで性格悪!…でも、ありがと!!!」
ラングレーの意地悪によって鼻息を荒くせざるを得ない桜ではあったが、彼のおかげで王都での、この世界での初めてのタピオカ販売が可能になったのであった。
「…気を取り直して、明日からタピオカ屋さん、頑張るぞー!!!」
「「おーーー!!!!!」」
こうして獣人達の店が幕を開けることになる。