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第38話 プルルン

 王都アーシャルは、王都と言っても規模はそこまで大きいものではない。中央には街を見渡すよう王城があり、それを囲むように貴族街・平民街がある。それだけだ。

 と言うのも王が住む以上、王都には結界がこの国で最も強く張られている。そのため穢れや魔物が発生するのは、王都から離れれば離れるほど出現率も強さも高くなる。魔物が強ければその分その魔物から採れる素材も高性能・高値となり、ラビ達のような力自慢の獣人や生活困窮者は狩人として、あえて王都から離れた街で暮らすことが一般的だ。


「…サクラお姉ちゃん、お外、怖くない?」

「大丈夫だよ。なんかあったらあたしがやっつけてあげるからね!」


 ラビ達は王都から離れた集落で暮らしていたそうだ。魔物を狩って生活をしていたそうだが、穢れが発生したことにより通常よりも多くの魔物が一度に集落を襲い、ラビ達のような戦闘に長けていない者は神殿の寄付を求め、王都まで逃げ込んだのであった。


「肉屋のおじさんに聞いたらさ、昼間は出入り自由だって聞いたんだけど、合ってる?」

「ええ。一応門番がおりますが、よほど怪しげな者でなければ止められることもないでしょう。特に今は家を失った者を守るよう、お達しが出ておりますしね。」

「おけおけ。じゃあ、これからみんなの得意不得意でお仕事をしてもらおうと思います!」

「何するの?」

「えっとね、ちょい待ってね。」


 桜はヴァルナフォンを取り出し、マップアプリに『ファミナ』と検索した。そして検索に従い近寄ると、そこには黒い花を咲かせたファミナという植物が生えていた。


「あったあった。これの花の部分、これを採ってね!で、次は『アルサム』の木…これね。この木の新芽を摘み取って、最後に『キャル芋』。この木の根っこね。」

「え、キャル芋ですか?それは毒がある芋のはずですが。」

「加熱したら食べられるんだよ。ちょ、ランラン、これ引っこ抜くの手伝って!」

「…仕方ありませんね。」

「俺がやるよ!」


 獣人の男性が桜の指示に従い木を引き抜くと、根っこにはたくさんのキャル芋が成っていた。

「おお〜!凄いじゃん!」

「まあな。足を悪くして狩人は引退したが、力はまだまだ劣ってねぇよ。」

「うんうん。じゃ、芋のとこだけ貰って、木はまた埋めようね。みんな採るやつ分かった?」

「はーい!」

「じゃ、ちょっとだけ回収してから街に帰ろう!あたしが合ってるか確認するから、採ったらここに持ってきてね!」


 ヴァルナフォンを使えばどこに何がどれだけあるのか、調べることは簡単だ。だがそれでは桜がいなければ彼らが素材を調達することは出来ない。桜は見本だけ見せ、あとは彼らが持って来たものが合っているか確認するだけに留めた。


「ランランは行かないの?」

「私はあくまでもサクラ様の護衛ですので。」

「あっそ。」

「…サクラ様、ファミナの花を見つけるのでしたら、根ごと採取してしまった方がよろしいかと。ファミナの根は傷薬の元となる素材。根を回収しておけば薬屋で売れると思いますよ。」

「へーそうなんだ。でも根っこまで採っちゃったらさ、もう花が咲かなくなるじゃん?あたしが欲しいのは花の部分だから。なるべく門から近場で採れるようにしときたいし。」

「左様ですか。」

「でも教えてくれてありがとね!」


 ラングレーは幹に腰掛けている桜の近くで木に寄りかかり、そのまま黙って目を閉じた。



 しばらくして桜はラングレーが動かなくなったことを確認すると、そーっとその場から立ち去ろうとした。


「どこに行くんですか?」

「え。…ランラン、起きてたの?」

「護衛中に寝る騎士がいるわけないでしょう。で、どこに行くおつもりで?」

「いや、すぐに帰ってくる」

「ご一緒します。」

「…エーさんには言わないでね。」


 桜がヴァルナフォンの指示に従って進んだ先には、1匹のスライムがぷるぷると落ちていた。

「スライムですね。あれがどうしたんですか?」

「…あれ、欲しいんだよね。」

「まさか魔法を使うおつもりだったのですか?」


 桜が笑顔で返すと、ラングレーは仕方ないと腰に刺していた剣を抜いた。

「仕方ありませんね。」


 ラングレーが剣を構えながらスライムに近寄り、スライム目掛け上から突き刺した。

「あれ、核を外したか。」


 スライムは激しくぷるぷると震え、ラングレーが再度突き刺そうと剣を抜くと、桜の足元の方へ飛び跳ねてきた。


「わっ、ちょ!」

 先ほどは背を向けていたため顔を見ることはなかったが、目が合ってしまった。

 ぷるぷると震えているスライムは、表情こそ変わらないが、どこか助けを求めているようにも思えた。


「ーーーっ!!あーダメ!あんたは殺せないよー!ごめんね、刺したりして。」

「サクラ様、よろしいのですか?素材が欲しかったのでは?」

 サクラは足元のスライムを抱きしめ、頭?を撫でては野に帰した。


「欲しかったけど、顔見ちゃうとさ、もう殺せなくない?他で考えるわ。」

「左様ですか。まぁスライムの素材など、玩具に使用されているくらいで大したものにはなりませんからね。」



 桜達が元いた場所に戻ろうとすると、後ろから先ほどのスライムがぴょこぴょこと付いて来た。

「…なんで付いて来んの?」

「サクラ様の魔力の波長にあったのかも知れませんね。」

「魔力の波長?って何?」

「魔力には適性や魔力量などの個人差がありますが、それ以外にもその人の波長があると言われております。俗に言うオーラ、というやつですね。」

「あー、あなたのオーラは何色とか言うやつか。」

「まぁ、そんなものでしょうか。稀に魔物が魔法を使える者に対し心を開くことがあるため、これらの原因は、その者の魔力の波長がその魔物の波長にあったためだ、と言われています。実際のところどうかは分かりませんがね。」

「ふーん。」


 桜が立ち止まり振り返ると、同じようにスライムもじっと止まっり、桜を見つめていた。


「…ランラン、スライムって街に入れる?」

「スライム程度であれば人に危害も加えませんし問題ないとは思いますが…まさか持ち帰るのですか?」

「だってよく見たらめっちゃ可愛いじゃん!決めた、あんたはプルルンね!今日からあたしが飼ってあげる!」

「はぁ。スライムなんて飼って、また変人扱いされますよ。」

「今更でしょ!プルルンって収納ストレージに入れる?入れ…そうだね、これでバレないっしょ!」


 桜が持っていたスクールバッグを広げると、プルルンは自らそこに飛び込んでいった。一々呪文を唱えることが面倒だった桜は、普段持ち歩いているスクールバッグ=収納ストレージにしていたのだ。

 魔道具に作り変えると言うのは非常に複雑な高等魔法であったが、桜の疑うことを知らない想像力と膨大な魔力によって、容易に達成出来てしまった。

 

「サクラ様、その鞄のことは、人に知られないように気をつけてくださいね。収納魔法が付いた魔道具なんて、どれだけ高価なものか…。」

「もし盗まれても大丈夫だよ!ルナにスマホがあたししか触れないようにした方法聞いてさ、同じ魔法をかけといたから。盗まれてもあたし以外開けられないよ。位置情報もマップで分かるしね。」

「…左様ですか。」



 ラングレーは思った。もうこの当たり前ではない、当たり前に、何も言うまいと。


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