第34話 いっちょやりますか
ローザスからの助言を受け、桜は獣人達に食事を与えるのではなく、獣人達が自分で生活ができるように仕事を与えることに切り替えた。
「みんなが出来る事とかさ、教えてよ!」
食事を提供したタイミングで、桜がにこやかに声をかけるも、彼らの反応は芳しくはなかった。
「…とは言ってもなぁ、俺ら獣人が売ってる物なんて、欲しがらないだろう。」
「何が人間達に流行っているのかも知らないもんね。」
「その内また神殿からの援助も戻るだろうしな。今辛抱できればいいだけだよな。」
ラングレーはそれ見た事かと、鼻で笑っている。来る途中、何度も無理だと言われたのだ。
桜は持ってきた鍋を思い切りお玉で殴り付けた。カーンという大きな音に、全員が静まると
「ごちゃごちゃうっせぇわ!てかあたしも人間だけど、何が流行ってるとか知らないし!でもさ、欲しいと思ってもらえる物があれば絶対買ってくれるから!やる前からそんな諦めてたら売れる物も売れないっつーの!
あたしのダチも獣人だけど、その子は獣人だからこそ出来ることがあるって言ってた。みんなにはないの!?獣人なのはみんなの良いとこじゃん!!」
と大声で主張した。
すると桜のすぐ近くで食べていたラビが立ち上がり、
「ボクは遠くの音も聞こえる。お仕事、してみたい。」
と震えながらも応えてくれた。
ラビはここにいる獣人達の中で最も幼く小さい身体をしており、そんな子供の様子を見て、他の者も黙っているわけにはいかなくなった。
「…まぁ、別にやることもなくて暇だしな。俺は鼻が効くぜ。」
「私は編み物が得意です。」
「ボクはね、脚が速いよ!」
「おっけ!メモるから待って待って!」
桜はヴァルナフォンに全員の名前・特技を打ち込んでいった。
「出来たー!」
「…で、どうするんですか?仕事のツテでもおありで?」
「ないに決まってんじゃん!」
あまりにも堂々と桜が言うので、ラングレーもよろけてしまった。
「んじゃ、次は街に行こ!ラビちゃん、みんな、次会う時までに考えとくから楽しみに待っててね!またね〜!」
ラビの頭をぐしゃぐしゃ撫でると、桜はラングレーと共に街中心にある市場へと繰り出した。食材の調達にも使用しているため、もう行き慣れた場所である。
「おっちゃん、ヤッホー!」
「おお、また来たのか。今日は何が必要なんだ!これなんかどうだ。」
「あ、今日は買い物じゃないんだけどー、聞きたいことがあって。
この辺りでさ、軽くなんか食べたいなーとか喉乾いたーってなったら何がある?お店じゃなくて外ですぐ食べたいんだけど。」
「あー、それならあそこの屋台で売ってるケタ鳥の串焼きか、フルーツくらいだろうな。後はパン屋か。」
「少なっ!え、ここでっかい街なのにそんな少ないの?」
「そりゃオメェ、ここは王都だからだよ。屋台で買って食べるほど急いでる者も少ない。むしろ王都から離れた方が狩人が多いからな、屋台は増えるぞ。」
「へー。おっちゃん、ありがと!」
桜は行きつけの肉屋の店主に話を聞き終えると、同じように野菜屋の女主人、フルーツ店…と顔馴染みの面々に挨拶がてら聞き込みを行った。
「サクラ様、そろそろ日が暮れ始めたので帰りますよ。」
「うわ、もうそんな時間か。ある程度聞いたし、帰ろっか!」
「…収穫はありましたか?大した内容ではなかったように聞こえましたが。」
「えーめっちゃあったよ!まぁバズるかどうかはやってみないと分からないけどさ。とりま簡単に出来て材料も少ないのが良いじゃん?本当はパワー系の人多いし、力仕事とかがいいんだろうけど、そう言うのは徐々にスタートかなぁ。」
ブツブツと何かヴァルナフォンに打ち込んでいく桜を見て、ラングレーは驚いた。ラングレーが渡したお金は10リアルもの大金ではあったが、もっと無計画に使ってしまうかと思っていたのだ。
「なんだか慣れているようですね。前の世界では学生だったとお伺いしておりましたが、商売のご経験でも?」
「別にそんな大したことじゃないけど、読モのバイト代でお母さんと暮らしてたし、イベント系のギャルサーの立ち上げやってたから。こういうの好きなんだよね!」
「そうですか。」
桜の言葉の半分は聞き慣れない単語が飛び交うが、ラングレーはそれを一つ一つ理解しようとはしない。ただ、桜の言葉は裏表がないのだということだけを理解していた。
「あ、てかさ、銭湯とかってある?」
「戦闘?何と闘うのですか?」
「ん?仕事始めるのにさ、あのままじゃダメじゃん?みんなでお風呂入りたくない?あとは可愛い制服も作りたいなぁ…。」
「ああ、風呂のことですか。生活魔法くらい使える者がいればいいんですけどね、獣人には難しいでしょうから。」
「セーカツ魔法?」
「…ご存知ないのですか?」
キョトンとした顔をする桜に頭を抱える。ヴァルナフォンを持っていても、使用できる桜が調べなければ何の意味もないのだ。
ランドレーはため息をつきつつも、丁寧に説明をしてくれた。
「よろしいですか、生活魔法とはわずかな魔力でも使用することができる魔法のことです。どの属性にも属さないため無属性魔法と呼ぶこともありますね。」
「なにが出来るの?」
「一般的には身体を綺麗にする浄化、濡れたものを乾かす乾燥、灯りを灯す点灯、物を格納する収納、この4つですかね。
属性魔法の適性がある者は、それらを生活に組み込み生活魔法と同様の扱いをしている者も中にはおりますが、属性魔法の方は魔力消費量が多いので頻繁に使用する者はいないでしょうね。まぁサクラ様でしたら関係ないかも知れませんが…どうされました?」
ラングレーがふと桜を見ると、桜はぶるぶると震えていた。
「あたしの今までの苦労は…夜な夜なローザちゃんにお湯もらってそれで髪洗って体拭いてたのに…」
「サクラ様?」
覗き込もうとしたラングレーを押し退ける形で急に桜が顔を上げた。
「ねえ、エーさんから魔法使うなって言われてんだけど、生活魔法ならいいよね?今すぐやりたい!いいよね??」
「え?ま、まぁ生活魔法程度なら…」
「だよね!では〜…クリーーーーーン!!!!!」
圧に負けて咄嗟に許可を出してしまったラングレーはすぐに後悔することになる。
二人は城への到着と共に、エドナーの部屋へ来るよう呼び出しを受け、しこたま怒られることになるのであった。