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第33話 考えることいっぱい!

 それから桜はエドナーの案を待つ一方で、オジスタン協力の元、定期的にあの孤児たちの元へ料理を運んでいた。


「ランラン、見っけ!さっ行くよ!」

「…またですか。一体どうやって私を見つけているのやら…。」


 桜が一人で城を抜け出すことはオジスタンも反対し、しかし獣人の孤児達をカイルに見せるには忍びない。レイクには頼みづらい。残るはラングレーというわけだ。

 桜は隠れるラングレーを捕まえては、無理矢理商人の馬車に乗せ街へ抜け出していた。


 “ヴァルナフォン“に入っている地図アプリでは、生物も含めて検索対象となっており、誰がどこにいるか簡単に調べることができるのだ。

 食材やレシピに関しても、同様に検索すれば神様直々の情報が閲覧可能であり、これは地球で言う○○、などの説明文も付随しているため、調理の仕方は工夫が必要ではあれど、さほど苦労することなく思った料理を作ることが可能だった。



「今日はこれを運べばいいんですね。また随分と変わった、目新しい料理ですね…。」

「今日はねー、カレーにしたの!給料日だったからさ、お肉も入れられたし、絶対子供達ウケいいじゃんと思って!」

「カレー、ですか。…まあ子供達の反応を見るに、桜様がお料理が出来るというのは嘘ではないようですしね。」

「あたし料理は上手なんだって。ちょっとだけランランも食べてみる?」

 ラングレーはにっこり微笑み返した。これは拒絶の笑顔だ。


 

「あっそ。」

 桜がラングレーの態度にフンと鼻息を荒くすると、足元に子供達が駆け寄ってきた。


「サクラお姉ちゃん!また来てくれたの!」

「今日はなあに〜?」

「ちょ、危ないよ!ほら、お皿持って並んで!」


 このエリアには最初に会った兎獣人の子供以外にも数十人ほどの獣人が居た。もちろん子供だけではなく、桜と同世代らしき見た目の者から老人までがここで暮らしていた。

 最初は桜に近寄って来るのはラビちゃんと呼ばれている子供だけだったが、次第に子供全員から大人までが桜が来るとどこからともなく近づいて来るようになった。


(今日のこの量でももう限界か…)


「ごめんね、一人一杯までね。」


 お代わりをしようと並び直す子供の頭を撫で、桜とラングレーは配給を終えるとすぐに市場で買い物をし、また商人の馬車に隠れ騎士寮へと戻って行った。


 

 せっかく子供達に会えたにも関わらず、馬車の中での桜は随分と暗い顔をしていた。

 最初の頃は誰が食べに来てくれただ、今日の料理は好評だったと聞いてもいない話をニコニコと話していた桜の変化に、興味を示そうとしなかったラングレーも頭を掻いた。

 

 すぐに飽きるだろうと思っていたこの取り組みに、もう数十回を超えるほどに付き合わされている。手伝いをさせられているラングレーも、獣人達からのお礼の言葉に、次第に悪い気はしなくなっていた。



「…私も寄付しましょうか。」

「え?」

 ラングレーの急な提案に俯いていた桜が頭を上げた。


「資金が足りなくて困っているのでしょう。少しであれば援助いたしますよ。」

「マジ!?…いや、でも、ランランには運んでもらったり買い出しも手伝ってもらってるし、お金までは貰えないよ。でもぶっちゃけめっちゃ助かる。でもローザちゃんに何か他に手伝えることないかとか、聞いてみて」

 ラングレーが懐に入っていた袋を差し出そうとしたが、桜はそれを受け取るか受け取らないか葛藤し続けた。その様子にブチっという音が聞こえたと思えば、桜目掛けて袋が降って来た。


「いいから黙って受け取れ。」

「…ランラン、ありがと。いつかちゃんと返すからね。」

「期待しないでおきます。」



 桜はラングレーから貰った袋を大切にスクールバッグへと仕舞った。



 ♢



 一月後、桜はついに先代聖女の日誌の翻訳業務を完了した。


「…翻訳文は問題ないな。聖女様がお戻りになられたら日誌と翻訳を共にお渡ししておく。」

「分かった。」

「サクラ、お疲れ!間に合って良かったな!」


 カイルが褒めてくれ、美香の帰城までに間に合って安心した反面、桜の顔色は芳しくなかった。レイクが求めていた今は亡き、アリアの情報が載っていなかったのだ。


「俺は報告しに城へ向かう。今日はもう休め。」

「レイク、あ、あのさ」

「…お前が気にすることではない。」


 レイクはいつもと同じ無表情のままで、何を思っているのか読み取ることは出来なかったが、桜はどこか申し訳なさを感じていた。



「サクラ、どうしたんだよ?」

「ううん、何でもない。あたしローザちゃんに伝えてくるわ。」



 桜は洗濯物を干していたローザスを手伝いつつ、翻訳業務が終わったことを伝えた。


「そーなのね!すごいじゃない!」

「まあミスってても最後美香さんがチェックして直すだろうし、これで勉強は終わりかなー!」

「そう。じゃあサクラは騎士寮から出て行くの?」

「え?」

「だって、もうここに残る必要がなくなったってことでしょう?もちろんサクラがいたいなら、これから聖女様と一緒に大勢戻って来るから、あたしはいてくれた方が嬉しいけどね。

 でも、忙しくなったら今ほど頻繁に街に行けなくなると思うわ。」


 ローザスはもちろん桜が街に抜け出し、自分が稼いだ金を全てあの獣人達に捧げていることを知っていた。ローザスも少しばかり応援の気持ちで、桜の給金に上乗せしていたのだ。


「…そっか。それは困るな。でもなぁ、行くとこもないし、お金ないんだよなぁ。」

「まぁ、焦らずに考えなさい。私はサクラのやりたいことを応援するわ。」

「ローザちゃん!マジ女神!!!」

「あらあら。」


 逞しいローザスの胸に飛び込む桜。鍛え上げられた胸筋は思いの外ふかふかとしていた。



「でも、いい?助けられてばかりでは人はダメになる。今のやり方がうまくいかないなら、次の手を考えないとダメよ?」

「…あー、ね。」

「サクラは甘え上手なんだか、下手なんだか分からないところがあるから。いつでも相談しなさい。」

「ローザちゃん、大好き!!!」


 桜がローザの胸筋に頬を擦り寄せると、ローザの大きな手が桜の頭を包み込んだ。



 オカマとギャル。異様な光景だが、性別も年も世界も越えた、美しい友情に暖かい風が吹いていた。



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