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第32話 あたしに出来ること

 桜が生み出した雷球は、エドナーが創ったものよりも大きく、形も歪でバチバチと鳴る音も大きい。


「や、やばっ!これ結構怖い!!」

「サクラ、落ち着け!」


 掌の上でどんどん膨れ上がっていく雷球に桜が怯え目を背けようとすると、後ろからエドナーが支えるように手を重ねた。


「魔法は外気にある魔力に自身の魔力を組み合わせることで出来ている。お前の想像で出来ているんだ。落ち着いて先ほど俺が出したものを思い出せ。」


 桜はそっと目を閉じた。


(エーさんのは…もっと小さくて、でももっと綺麗に丸くて、中で雷が光ってて…)


 バチバチと鳴り響いていた音は桜の思考に比例するかのように、少しずつ小さくなっていった。


「…成功だな。」

 エドナーの声でゆっくりと目を開くと、まだエドナーのものよりは随分と大きいが、先ほどよりも綺麗な球体を成し、雷もその球の中でのみ光っていた。


「やばー!あたし魔法使いじゃん!!ヤバ過ぎ!!」

「どうした、何か問題があるのか?」

「え?」


 エドナーがあまりにも心配そうにしているため、桜はプッと噴き出してしまった。

「違う違う!やばいって、そう言う意味じゃなくて、なんかこう、凄いってこと!」

「そうか、すまない。」

「いや、別に謝んなくて良いけど。とりまやばいは何にでも使えるし、覚えとくといいよ!」

「そうか、やばいな。やばいやばい。」


 真顔で“やばい“と連呼するエドナーに桜は腹を抱えて笑った。


「やばっ、エーさんおもろすぎ!お腹痛いんだけど!!」

「やばいか?」

「ヒー!ちょ、マジやめて!」


 桜が涙目になる程笑い集中が途切れると、再び雷球がバチバチと乱れ始めた。


「うわ、エーさんこれどうやったら消えんの?」

「一度発動させた魔法を消すことは出来ない。」

「エーさんさっき消したじゃん!」

「消したのではない。少しずつ分散させただけだ。」

「分散?散れって思えばいいの?」

「いや、待」

「散って消えろー!」


 桜の言葉と同時に雷球は破裂し、言葉通り散り散りに部屋中を駆け巡り、ベランダから宙に走るように消滅した。

 雷が部屋を駆け巡った形跡はすごく、激しい光が放たれたかと思えば、エドナーに包み込まれていた。咄嗟にエドナーが身を挺して桜を庇ったのだ。


「ご、ごめん、エーさん、大丈夫??」

「…問題ない。少し痺れているがすぐに戻る。」

「マジごめん、あんなんなると思ってなくて…痛い?」

「俺は雷の耐性があるから問題ない。気にするな。」

「本当ごめんね…。」


 申し訳なさそう眉を下げる桜は、すっぽりとエドナーの腕の中に包み込まれていた。


 このままここに閉じ込めてしまいたい。

 強く抱きしめたくなる思いを堪え、桜の頭にポンと手を置き、

「サクラはやばいな。」

と微笑んだ。


 桜は顔を真っ赤にしながら頬を膨らませ、そしてすぐにいつもの笑顔の桜に戻っていった。



 日が暮れ始めた頃、エドナーは桜に

「魔法を使うのはやめておこう。」

と提言をした。魔法を習いたい、使ってみたいという桜の思いを叶えてやりたいと思うエドナーではあったが、人が近寄ってこないエドナーの部屋であったとしても、ここは城の中。いつ誰に桜の本当の力が知られ、桜が幽閉されてしまうか気が気ではなかった。


「でもせっかく魔法が使えるのに、勿体無くない?せっかくなら、美香さんまでやりたいとは思わないけどさ、あたしがここで、あたしにしか出来ないことがあるならやってみたいって言うか・・・。」

「何かやりたいことがあるのか?」


 口籠る桜にエドナーは尋ねた。

 ハッキリと何かを考え、見据えているわけではなかったが漠然とした希望を口にした。


「もし、もしもだけどさ、ワンくんとか、こないだ会ったウサギの子みたいな、獣人?の人が困ってて、あたしがそれを助けられるなら、なんかしたいなって思うんだけど…。」

「サクラは獣人達に恩でもあるのか?」

「ないけど、でも、なんかあの人はこうだからとか決め付けて酷いこと言われてんの、見てられないって言うか。獣人がどんだけいるか知らないし、もっと可哀想な人もいっぱいいるのかもだけど、やっぱあたしはあの子が忘れられない。」


 桜のスカートを引っ張った、ボロボロで弱々しかった少女のことを桜は忘れることが出来ずにいた。


「…そうか。お前はそういう奴だったな。」


 エドナーも含め、同じ獣人のカイルですらも、あのエリアにいる獣人達のことを知ってはいても何かしたいとは思っていなかった。彼らが可哀想だと思わないわけではなく、気が向けば金や食料を分け与えることもある。だが、住む場所も職も失い王都へと逃げ込んだ彼らは、ただ、そういう存在としてそこにいるという認識だった。


 だが桜にとっては違った。

 桜もこれまで同じような境遇の人を見たことがないわけではないが、幼い子供を放って置けるほど、割り切ることは出来なかった。

 今の自分であれば、この国で一番の魔力があると言われるエドナーよりも魔法を使える可能性を秘めている自分であれば、せめて幼い子供達をあの過酷な環境から救い出すことが出来るのではないかと、桜の頭の中はそんな考えでいっぱいだったのだ。



「少し考える時間をくれ。サクラの願いが叶えられるよう、何か策を考えてみる。それまで魔法は使わず、その魔道具のことも秘密だ。いいな。」

「うん!エーさん大好き!!」

「ああ。俺たちはマブだからな。」


 桜は嬉しそうにエドナーを抱きしめ、エドナーは桜の頭をそっと撫でたのだった。

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