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第31話 もうちょい!

 翌日から桜の翻訳業務は一気に進んでいった。

 ヴァルナによって改造されたスマートフォンー略して“ヴァルナフォン“ーには、“この世界仕様にする“と言っていた言葉通り、全てが変わっており、電波が入っていないにも関わらず、画像からの翻訳、分からない単語の検索、この世界の人に分かるような説明文すらも調べることが出来た。


「…凄いな、ほぼ間違いがない。それにこの補足文、分かりやすくまとまっている。」

「でしょー!」

 今までの苦労がなんだったのかと思うほどに簡単に進み、ヴァルナフォンに変えてもらって良かったと桜は心の底から感謝した。


「このペースでいけば聖女様が戻られる前に全て終わりそうだな。」

「あ、美香さんもうすぐ帰ってくるんだっけ?穢れを祓うみたいなやつは終わったの??」


 レイクは順調な翻訳業務に嬉しそうにしていたが、一瞬にして元の無表情に戻ってしまった。

「後一月ほどでご帰還されるご予定だ。旅はお前が思っている以上に大変だからな、ご静養されるお時間をとられ、その後再度出発される。アストリア王国内だけでも万を超える村があるからな、各地を回り終えるのは早くても後5年はかかる。」

「ご、5年!?そんなかかるの!?」

「…これでも今代の聖女様のおかげで随分と早いペースなのだ。

 聖女様は薬の知識に長けておられ、国内の薬草を用いたポーションの開発を路中で行われたと聞く。穢れによって国内のポーションはどれだけ作っても供給が追いつかなかったが、聖女様からのご提案で随分と安定的に効率良く作ることが可能になったそうだ。それらの設備の確認も含め、聖女様は一度ご帰還される。

 次に聖女様がご帰還されるのはもっと先になるかも知れない。このタイミングでご確認いただいた方がいいだろう。」


 日記の残りはおよそ4分の1。ヴァルナフォンがあれば一月で終えることも不可能ではなさそうだった。


「サクラいつの間にアストリア語をそんなに出来るようになったんだよ。俺も頑張らないとな!」

 カイルは珍しくレイクに褒められた桜を見て鼻息を荒くしたが、桜は一生懸命に教材に取り組みカイルを見て、どこか申し訳なさを感じた。


「…いや、あたしのこれはさ、スマホのおかげであたしの力じゃないから。ワンくんのが偉いよ。」


 桜が眉を八の字にすると、カイルはキョトンとした顔で桜を見つめた。

「なんでだよ。そのスマホが使えるのはお前の力だろ?別に道具使ったらズルなんてないしさ、何を使ったって、成し遂げることが大事なんだよ。まぁこれ、ブラインさんの受け売りだけどな。」

「エーさんの?」

「うん。俺は魔法が使えないからさ、実技訓練の時どうしても遅れを取ってたんだけど、ブラインさんが俺の身体能力を活かせって、戦い方を教えてくれて。俺用に合わせて魔力が込められた装備も作ってくれたんだ。」


 カイルは嬉しそうに足に着けているブレスレットのような物を指した。これを身に付けているとより速く動くことが可能になるそうだ。


「エーさん良い事言うね。てかワンくんいつもビビってるけど、エーさんのこと大好きじゃん。」

「べ、別にビビってねーよ!ちゃんとしなきゃって思ってるだけで…。」

 ラングレーが言っていたばかりではなく、カイルのようにエドナーのことを慕う人が自分以外にもいたことに、桜はなんだか嬉しくなった。


「でも、そうだよね、この世界でスマホ使えるのはあたししかいないし、これもあたしの力なんだよね。」

「そうだよ。早く終わったほうがみんな助かるんだし、頑張ろうぜ。」

「ワンくん、ありがとう!!」

「わっやめろよ!!」


 桜がカイルに抱きつき頭を撫でると、カイルはいつも抵抗するがその尻尾はパタパタと揺れて、その言葉と逆の仕草が愛おしく、桜は何度カイルにやめろと言われてもやめることなど出来なかった。


(ワンくん、マジで癒し・・・!)



 ♢


 

 翌週、モバイルバッテリーの充電がてらエドナーの部屋に行った桜は、自分のことのようにカイルがエドナーを褒めていたことを嬉しそうに話した。


「…カイルはまだあの魔道具を使っていたのか。」

「そうだよ!ワンくんもさ、結構素直じゃないから、尻尾で判断したら良いよ!尻尾が揺れてたら喜んでるってことだから!絶対エーさんが頭撫でたら喜ぶと思うよ、マジで!」

「そうか、では次に会ったら試そう。」


 エドナーの表情は分かりづらいが、それでも顔を覆っていた髪や髭が無くなった分、随分と丸くなったように感じる。


「でさ、今日は何する?あたしも魔法使ってみたい!てかそしたら自分で充電可能?ヤバいんだけど!高まる〜!!!」

「まずは初級魔法から行ってみよう。俺は雷の適性しかないからな、雷の初級魔法を教えよう。」

「おけ!」


 桜が親指を立てエドナーに向けると、エドナーは持っていたモバイルバッテリーを机に置き、手を上に向けて突き出した。


「『雷の精よ、我が手に集い球を描け–サンダーボールー』」


 エドナーが呪文を唱えると、言葉通り、掌の上ではバチバチと鳴りながら野球ボールサイズの球が発生した。


「おー!!!呪文は激ヤバだけど、超カッコいいね!!!あたしもやるわ!」

「呪文は覚えたか?今文字に書き起こそう。」

 エドナーが発動させた魔法をやめ、紙とペンを探そうとしている隙に、桜も同じように手を突き出した。


「えーっと、雷のなんちゃら、ボール?とりま、雷の球出てこーい!」

 エドナーと同じくバチバチと鳴りながら雷の球体が発動した。


「やばい出来たんだけど!!…ん?」

 

 しかし、エドナーの魔法は野球ボールサイズだったにも関わらず、桜のはバレーボールサイズ。そして少しずつ大きくなっているようだった。

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